デプスインタビュー

デプスインタビューとは、調査者が対象者と 1 対 1 で向き合い、時間をかけて質問を掘り下げながら、本人の経験や意思決定の背景にある本音を引き出す定性調査の手法です。

デプスインタビューを具体例で理解する

ある定額サービスの解約が、じわじわ増えている。理由を知りたい。

アンケートを配ると、解約理由のトップは「料金が高い」だった。数字は明快だ。でも、その一行で値下げを決めていいのか、どこか確信が持てない。

そこで、解約した人を 1 人ずつ呼んで、60 分ほど話を聞いてみる。「最後に使ったのはいつでしたか」「そのとき、何があったんでしょう」と、出来事をたどっていく。

すると、ある人がこう言った。

「正直、料金はきっかけで。本当は引っ越して生活リズムが変わって、使う時間がなくなったんです」

「料金が高い」という選択肢の裏に、引っ越しがあった。これは、選択肢を選ばせる設問からは出てこない。

これがデプスインタビューである。

デプスインタビューの仕組み

進め方の軸は、用意した質問を順に読み上げることではない。相手の答えに合わせて「それはなぜですか」「もう少し詳しく」と掘り下げ、流れそのものを対象者に委ねていく。

聞きたい論点だけ決めておき、道順は決めない。この半構造化と呼ばれる形が基本になる。

対象は数人から十数人ほど。同じ話が繰り返し出てきて新しい発見が減ってきた状態(飽和)を、人数を切り上げるひとつの目安にする。

デプスを選ぶか、別の手法を選ぶか

ここが、発注する前にいちばん迷うところだと思う。

1 対 1 のデプスが向くのは、他人の目があると話しにくいテーマのときだ。お金、健康、コンプレックスにかかわる商品。あるいは、購入や解約に至るまでの込み入った思考を、ひとりの中で順を追って解きほぐしたいとき。隣に誰もいないからこそ、人は建前を外せる。

一方、複数人で語り合うグループインタビューが向くのは、参加者どうしの反応が刺激になって発想が広がる場面だ。新商品のアイデア出しや、コンセプトへの第一印象を集めたいとき。ただしその場では、声の大きい人に引っ張られたり、空気に合わせた答えになりやすい。

そして、「で、それは何人いるの」を知りたくなったら、もう定性調査の出番ではない。デプスで見つけた仮説を、定量調査で数えて確かめる。深く掘るデプスと、広く数える定量は、競合ではなく往復する関係にある。両者を含む定性調査の中で、デプスは「少人数を深く」の極に立っている。

デプスインタビューでわからないこと

数人の話だから、そこで聞いた内容を「世の中の何 % がそう思っている」とは読めない。デプスが見つけるのは割合ではなく、仮説と、その背後にある理屈だ。

もうひとつ、聞き手の影響が入りやすい。「では、料金が理由ということですね」と先回りして確認すると、相手はうなずいてしまう。深く掘る手法は、裏返せば誘導しやすい手法でもある。だから記録を読み返すときは、対象者が自分から言ったことと、聞き手が引き出した(あるいは誘導してしまった)ことを、分けて扱う必要がある。

デプスインタビューは、平均の手前にある声を聞く

定量調査は、何人がそう思っているかを教えてくれる。けれど、なぜそう思うに至ったかという道筋までは、数字の中に畳み込まれて見えなくなる。

その「料金が高い」は、本当に料金の話なのだろうか。

聞くべきなのは、選択肢の名前ではない。その人がそこにたどり着くまでに通った、出来事の順番だ。だから報告書に書き写したいのは、発言の要約ではなく、判断が動いたその瞬間そのものでありたい。

あの「引っ越して使う時間がなくなった」の一言は、選択肢の列には並ばない。それを本人の口から、出来事の順番ごと引き出せたとき、デプスは平均の手前にある声を、はじめて言葉にしている。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。