解約理由インタビューの設計:やめた本当のきっかけを行動から読む
目次
「解約した人に、なぜやめたのか聞いてきて」。上司にそう頼まれて、素直に「なぜ解約したんですか」と聞いて回ると、たいてい「うーん、値段が高くて」と返ってきます。きれいに揃った答え。でも、それをそのまま資料に載せて値下げを決めても、なぜか解約は止まりません。
わたしは定性のインタビューでプロダクトを直す仕事をしてきましたが、この「なぜ解約?」ほど、素直に聞いてはいけない質問はないと思っています。理由を直接たずねると、答えが後付けの物語に化けるからです。
この記事では、解約の理由を「聞かずに」つかむインタビューの設計手順を、オンライン英会話サービスの解約者を例にまとめます。誰に・いつ聞くか、理由の代わりに何を聞くか、同意と謝礼をどう扱うか、返ってきた話をどう読むか。読み終えたら、歪んだ「値段のせい」に振り回されずに、離脱のきっかけまで降りていく面接を、自分で設計できるようになります。
先にひとつ断っておくと、この記事に出てくる対象者・受け答え・記録は、すべて説明のために作成した仮想インタビューです。実在のサービスや調査結果ではありません。
「なぜ解約したか」は、聞くほど歪む
前提が 1 つあります。解約の理由を本人に直接たずねると、返ってくるのは「その場で組み立てた、筋の通った物語」になりがちです。歪み方には、だいたい 3 つの顔があります。
ひとつめは、後知恵の合理化。人は、自分の行動の本当のきっかけを、正確に思い出して語れるとは限りません。心理学者の Nisbett と Wilson は、人は自分の心の動きを内側から正しく報告できないことが多く、聞かれると「それらしい理由」を後から作ってしまう、と指摘しました。相手が嘘をつくわけではありません。理由は、聞かれた瞬間に作られる。
ふたつめは、社会的望ましさ。「なんとなく続かなくて」「自分がサボって」より、「値段が高かった」「忙しくて時間がなくて」のほうが、相手にとっても自分にとっても言いやすい。だから答えは、外的で、角の立たない理由に寄っていきます。回答は、頭に浮かんだことをそのまま出すのではなく、口に出す前に一度「見せてもいい形」に整えられる——調査回答の認知過程を扱う研究が、この編集の段階を描いています。
みっつめは、単一原因化。「理由は?」と一つの問いで聞かれると、人は答えも一つに畳みます。ほんとうは予約の取りにくさ・学習習慣の途切れ・価格が絡み合っていても、いちばん言いやすい「値段」に集約される。こうして「値段が高い」が一位になり、値下げしても解約が止まらない、という空振りが起きます。
(これは統計の法則というより、認知心理と調査方法論が繰り返し指摘してきた人のクセだと思ってください。断定ではなく、傾向の話です。)
だから、この記事を通しての構えは一つです。「なぜ?」を本人にぶつけて返ってきた理由を、そのまま解約の原因として受け取らない。代わりに、理由ではなく行動を辿る。順に見ていきます。
聞く相手は「直近に解約した人」に絞る
誰に聞くか、から決めます。ここで大事なのは、手当たり次第に解約者を集めないこと。定性のインタビューは、たくさんの人から浅く集めるのではなく、機序が見えそうな人を意図して選ぶのが基本です(Patton の言う目的的サンプリング=目的に照らして対象を意図的に選ぶ考え方)。
選ぶ軸は、次の 3 つです。
直近に解約した人。 目安として、過去 1 ヶ月以内にやめた人です。時間が経つほど記憶は薄れ、後付けの物語が固まります。
利用実態でスクリーニングする。 契約しただけでほぼ使わなかった人と、使い込んでいたのに離れた人では、離脱の筋がまったく別です。狙いに応じて、どちらを・どんな比率で含めるかを先に決めます。無料体験だけでやめた人も、別の枠として扱います。
プロダクトと無関係な解約は分ける。 引っ越し・転職・家庭の事情など、サービスの出来とは関係のない事情が明らかな人は、除外するか、別セグメントに置きます。ここを混ぜると、機序が濁ります。
オンライン英会話の例で、スクリーニングの一覧を組むと、こんな形になります。
| 区分 | 条件 | 扱い |
|---|---|---|
| 対象 A:使い込み層の離脱 | 直近 1 ヶ月以内に解約/解約前 3 ヶ月の平均受講が週 2 回以上 | 主対象 |
| 対象 B:低頻度層の離脱 | 直近 1 ヶ月以内に解約/解約前 3 ヶ月の平均受講が週 1 回未満 | 主対象 |
| 参考 | 無料体験のみで有料化せず離脱 | 別枠で少数 |
| 除外 | 引っ越し・転職など無関係な事情が明らか/従業員・関係者 | 対象外 |
人数は、区分ごとに 5〜8 人あたりから、同じ話の型が繰り返し出てくるか(理論的飽和)を見ながら足していきます。この記事に出す人数・日数・時間の数字は、統計的な最適値ではなく、わたしの経験からの目安です。以降、いちいち断りません。
一人ひとりの利用実態まで踏み込んで読む、という姿勢は、顧客を一人単位で深く見る n1 分析 の考え方に近いです。だからこそ、リクルーティング の段階で「誰の、どんな離脱を見たいか」を絞っておくほど、あとが効いてきます。
やめてから日が浅いうちに聞く
いつ聞くか。これはトレードオフです。
解約した直後に聞けば、記憶は新鮮です。ただし感情が高ぶっていて、不満が実際より大きく語られたり、解約手続きの面倒くささのような「最後の一押し」ばかりが前に出たりします。
逆に、しばらく置いてから聞くと、感情は落ち着き、俯瞰して話してもらえます。でも今度は記憶が薄れ、後付けの物語がいっそう固まる。過去の出来事を思い出す作業そのものが難しくなっていくからです。
わたしの目安は、解約から 2 週間〜1 ヶ月あたり。感情のピークを少し過ぎて、でも行動の記憶がまだ残っている、その窓を狙います。
ひとつ補足を。解約手続きの最後に出る自動アンケートは、これとは別ものです。あれは、多くの人からざっくり量を取る仕組み。ここで設計しているのは、少人数に深く聞くデプスインタビュー(相手ひとりから、時間をかけて掘る面接)なので、少し置いてから、腰を据えて聞きます。
理由ではなく、最後の 1 ヶ月の行動を聞く
ここが設計の心臓部です。「なぜやめたか」を聞く代わりに、最後にちゃんと使っていた頃から、やめるまでの行動を、時系列で再構成する。理由や意見ではなく、具体的に何が起きたか、という出来事を集めます。
この「出来事を集める」やり方には、古くからの土台があります。Flanagan が 1954 年にまとめた重要事象法は、抽象的な感想ではなく、行動を左右した具体的な出来事を集めて分析する方法です。Patton も、面接ではまず行動・体験を聞き、意見や価値はそのあとに回せ、と説きます。人は、抽象的な意見から先に聞かれると、建前や「正解っぽいこと」を言いがちだからです。
言葉だけだと掴みにくいので、身近な場面に置き換えます。鍵をなくしたとき、「なぜなくしたんだろう」といくら考えても、鍵は出てきません。でも、「今日は玄関を出て、コンビニに寄って、鞄を助手席に置いて……」と、その日の道順を順に辿ると、置き忘れた場所にたどり着く。解約も同じで、「理由」を問うより「最後の 1 ヶ月の道順」を辿るほうが、つまずいた場所がちゃんと見えます。
実際の聞き方は、時間をさかのぼる階段のように組みます。
- 「最後に、ちゃんとレッスンを受けていたのは、いつ頃でしたか」
- 「その頃は、どんな流れで受けていましたか。曜日とか、時間とか、講師とか」
- 「受ける回数が減っていったのは、どのあたりからでしたか」
- 「そのとき、何が起きていましたか」
一問ごとに、出来事を一つだけ拾う。「なぜ」を直接ぶつけないのがコツです。もし理由や、その人が大事にしている価値まで降りたいときは、ものごとの特徴から、その意味や価値へ一段ずつ昇るラダリングという技法があります。ただ、その手順にはここでは立ち入りません。深掘りの型はインタビューガイドの作り方に、誘導せずに開く聞き方は誘導質問の実例に、それぞれまとまっています。
悪い聞き方と良い聞き方を、一つだけ並べてみます。
理由を直撃する版 面接者:「解約された理由は、何だったんですか」 相手 :「まあ、月謝がそれなりにしたので……値段ですかね」
行動を再構成する版 面接者:「最後にレッスンを受けたのは、いつ頃でしたか。その前後は、どんな感じでした」 相手 :「先々月までは、朝いつも同じ先生でやってて。でも、その枠が取りづらくなってきて、別の時間に変えたら、なんか続かなくなって」
同じ人・同じ解約でも、返ってくる中身がまるで違います。左では「値段」。右では、朝の予約が取れなくなり、習慣が切れていった、という筋が顔を出しました。犯人は、値段じゃなかった。
ガイドは 5 つの場面で組み立てる
聞く軸が決まったら、インタビューガイド(枠だけ決めて、実際の質問は会話の流れで動かす半構造化面接の下書き)に落とします。解約者インタビューなら、次の 5 つの場面で組むと、時系列がきれいに通ります。
- オープニング
- あいさつ、目的の共有、録音の許可、任意参加の確認。
- 利用の実際
- いちばん使えていた頃、ふだんどう使っていたか。良かった時期の行動を、具体的に。
- つまずき
- 使う回数が減り始めた時期と、そのとき何があったか。ここが重要事象。
- 離脱の瞬間
- 「もうやめよう」と最終的に決めた前後で、何が起きていたか。
- 代替行動
- やめたあと、その目的(この例なら英語学習)を、いまどうしているか。
完成ガイドを、抜粋で置きます。
■ 利用の実際 ・呼び水:「いちばん続いていた頃、どんなふうにレッスンを受けていましたか」 ・プローブ:どの時間に?/どの先生で?/週に何回くらい?
■ つまずき ・呼び水:「受ける回数が減ってきたな、と感じ始めたのは、いつ頃でしたか」 ・プローブ:そのとき何が起きていました?/予約や時間で、変わったことは?
■ 代替行動 ・呼び水:「やめたあと、英語の勉強は、いまどうしていますか」 ・プローブ:別のサービス?/独学?/いったんお休み?
5 番目の「代替行動」が、地味に効きます。乗り換え先が「予約不要で好きな時間にできる教材」だったなら、離脱の筋が予約の取りにくさにあった、という裏づけになる。逆に「英語自体をやめた」なら、動機のほうが問題だったのかもしれません。面接での記録の取り方そのものは、姉妹記事の発言録の作り方にまとめてあります。
同意と謝礼は、質問の前に決める
質問の中身より先に、必ず片づけておくことがあります。同意と謝礼、そして除外の線引きです。ここを飛ばすと、良い設計も台無しになります。
まず、インフォームド・コンセント(説明したうえでの同意)。目的、録音の可否、録音データを何に使い・どう保管し・いつ消すか、そして任意参加であることを、最初に伝えます。答えづらい質問は飛ばしてかまわないし、途中でやめてもいい。市場調査の国際倫理綱領(ESOMAR)や国内の綱領(JMRA)も、参加者の保護と、こうした事前の同意を求めています。
解約者ならではの注意も、ひとつ。相手は、サービスに不満を持っているかもしれません。だから、これが引き止めや営業の場ではないことを、はっきり伝えます。「サービスをよくするために話を聞かせてほしい、勧誘や返金の交渉ではない」と最初に言い切る。ここが曖昧だと、相手は身構えて、本当のことを話してくれません。
謝礼は、拘束する時間に見合う形で用意します。解約者は「もう自分は客じゃない」と感じているので、参加の後押しとして謝礼はとくに効きます。ただし、高すぎる謝礼は「気に入られる答え」に寄せてしまう心配があるので、相場の範囲に収めるのが無難です。
除外の線引きは、選ぶ段階で触れたとおり。従業員・関係者や、プロダクトと無関係な事情での解約は、対象から外すか別扱いにします。誰を入れて誰を外したかは、記録に残しておきます。
言ったことと、やったことのズレを読む
聞き終えたら、読む番です。ここでいちばん大事な構えは、発言を、そのまま事実として扱わないこと。インタビューの発言は解釈の対象であって、額面どおりに読むものではない——Kvale はこれを繰り返し念押しします。
具体的には、言語化された理由と、再構成した行動を、並べて突き合わせます。「値段が高い」と言った人が、実は解約前の 1 ヶ月、予約が取れずに受講がほぼ止まっていた。この二つを並べると、ズレが見える。ズレがあるとき、機序は行動のほうに宿っていることが多いです。
読むときは、次の 4 つを分けて書き留めます。
- 相手が言ったこと
- 「月謝が高かった」
- 面接者が観察したこと
- 予約の話になると急に具体的になり、値段の話はふわっとしていた
- 面接者が推論したこと
- 主因は価格ではなく、予約の取りにくさによる習慣の断絶
- その推論の強さ
- 現時点では 1 人の仮説。ログや他の対象者で裏を取る必要がある
大事なのは、最後の一行です。一人の発言、いや一人の行動の筋を、そのまま「解約の原因」として意思決定に載せない。複数の人から同じ行動の型が繰り返し出て、はじめて仮説として持てる。一人を深く読む価値(n1 分析)と、型が繰り返されているかを見る目は、両方いります。
解約者の声だけでは、原因は確定できない
この設計にも、はっきりした限界があります。
解約者の声だけでは、原因は確定できません。 これは生存者バイアスの裏返しです。聞いているのは、やめた人だけ。留まっている人や、そもそも登録しなかった人の声は入りません。「予約が取れない」が解約の主因に見えても、留まっている人も同じ不便を我慢しているかもしれない。だから、この設計は原因の「候補」を出すところまでで、因果を一本に決めるものではありません。
思い出しは、どうしても歪みます。 行動の再構成も、記憶に頼る以上ゆがみます。可能なら、実際の受講履歴や予約ログと突き合わせると、ぐっと強くなります。
割合は測れません。 「予約の取りにくさ」がどれだけの解約に効いているか、その大きさは、この定性設計では分かりません。数が要るなら、ログ分析やアンケートと組むミックスメソッド(定量と定性を組み合わせる設計)の話になります。
そして、ここで見てきたのは架空の教材です。 対象者も、受け答えも、ガイドも、離脱の筋も、ぜんぶ説明用に作ったものです。練習できるのは「聞き方と読み方の手つき」であって、どこか特定のサービスの解約の真実ではありません。
おわりに
「解約した人に、なぜやめたか聞いてきて」。冒頭のあの依頼に、もう素直に「なぜ?」で答えなくて済むようになりました。理由を直撃する代わりに、最後の 1 ヶ月を辿る。つまずいた出来事から、離脱のきっかけを読む。それだけで、返ってくるものが「値段のせい」から、つまずいた具体的な出来事に変わります。
次に解約者に会う前に、ひとつだけ試してみてください。ガイドから「なぜ解約したんですか」を消して、「最後にちゃんと使っていたのは、いつ頃でしたか」に置き換えてみる。たったそれだけで、相手の口から出てくる話の濃さが、変わってくるはずです。
参考文献
- John C. Flanagan “The Critical Incident Technique”, Psychological Bulletin, 51(4), 1954, pp.327–358, DOI:10.1037/h0061470.
- Richard E. Nisbett & Timothy D. Wilson “Telling More Than We Can Know: Verbal Reports on Mental Processes”, Psychological Review, 84(3), 1977, pp.231–259, DOI:10.1037/0033-295X.84.3.231.
- Michael Quinn Patton, Qualitative Research & Evaluation Methods, 4th ed., 2015, SAGE, ISBN 9781412972123.
- Steinar Kvale & Svend Brinkmann, InterViews: Learning the Craft of Qualitative Research Interviewing, 3rd ed., 2015, SAGE, ISBN 9781452275727.
- Roger Tourangeau, Lance J. Rips & Kenneth Rasinski, The Psychology of Survey Response, 2000, Cambridge University Press, DOI:10.1017/CBO9780511819322.
- ESOMAR, ICC/ESOMAR International Code on Market, Opinion and Social Research and Data Analytics, https://esomar.org/icc-esomar-code-of-conduct.
- 日本マーケティング・リサーチ協会「マーケティング・リサーチ綱領」https://www.jmra-net.or.jp/rule/.