定性調査

定性調査とは、インタビューや観察を通じて、数値ではなく言葉や行動そのものをデータとして集め、人が「なぜ」そう考え、そう行動するのかを理解するための調査手法です。英語では qualitative research。規模を測る定量調査と、対をなす。

定性調査を具体例で理解する

新しいグラノーラを出した食品メーカーが、次の一手を迷っている。販売データで 30 代女性が最も買っていると分かっても、なぜ選ばれているのかは、数字のどこにも書かれていない。

そこで購入者の家庭を数軒訪ね、話を聞き、食事の様子を見せてもらう。ある家庭では子どものおやつに皿へ出され、別の家庭では夜、ヨーグルトに混ぜられていた。「朝食の置き換え」という想定は、生活の中では別の形をしていた。

パッケージを直すのか、売場を変えるのか。数字が示せなかった「なぜ」が、判断の材料になる。これが定性調査である。

定性調査の仕組み

データは、選択肢への回答ではなく、発話と行動、その場の文脈だ。代表的な手法に、1 対 1 で掘り下げるデプスインタビュー、複数人で語り合うグループインタビュー、現場に入り込む行動観察エスノグラフィがある。

設計で決めることは三つ。誰に、何人に、どう聞くか。対象者は無作為ではなく、問いに照らして「この経験を持つ人」を意図して選ぶ。人数は数人から十数人が目安になることが多く、新しい話が出なくなる理論的飽和が切り上げの目安になる。Guest らの 2006 年の研究でも、対象と問いを絞った条件なら 12 件ほどで主要な論点が出そろったと報告された。聞き方は台本ではなく、答えに合わせて掘り下げる余地を残して設計する。

いつ定性を選び、いつ定量を選ぶか

分かれ目は、知りたいことの形にある。

「なぜ買うのか」「どこでつまずくのか」と、理由や過程を知りたいなら定性。仮説がなく、アンケートの選択肢すら書けない段階でこそ効く。選択肢の材料を集めてくる調査、と言ってもいい。

「何人いるのか」「どちらが多いのか」と、規模や割合を測りたいなら定量。定性で見つけた仮説が市場全体で成り立つかは、定量で確かめる。両者は優劣ではなく、どの順で組むかの関係にある。組み合わせの型はミックスメソッドと呼ばれる。

定性調査でわからないこと

定性調査は、規模を測る道具ではない。10 人中 7 人が同じことを言っても、「世の中の 70% がそうだ」とは読めない。対象者は意図して選ばれた数人で、市場の縮図ではないからだ。発言を数えて割合で語った瞬間に、この手法は根拠を失う。

もうひとつ、発話は事実そのものではない。理由は後から組み立てて語られることがあるし、聞き手の相づちひとつで答えが変わることもある。だから分析は集計ではなく、言葉と行動を突き合わせた解釈になる。

定性調査は、数える前の仕事である

アンケートの選択肢も、KPI の定義も、最初は誰かが言葉で決めている。その言葉が相手の生活とずれていたら、どれだけ丁寧に集計しても、ずれたまま精密になるだけだ。

数字が正しく答えてくれるのは、正しく問えたときだけだと思う。

定性調査とは、その問いの言葉を、相手の生活から借りてくるための調査である。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。