アンケート結果を深掘るインタビューの設計:定量の差を定性で掘る接続手順

目次

アンケートの集計表に、満足度が低いセグメントがひとつ浮いている。「ここが弱点ですね」と言われて、その層の人を呼び、「やっぱり不満なんですよね」と確かめて、報告書に「インタビューでも裏付けが取れた」と書く。わたしも昔、これをやっていました。

でも、これは深掘りではありません。数字が低い相手に「低いですよね」と聞けば、たいてい「低いです」と返ってきます。それは確認ごっこであって、なぜ低いのかも、どうすれば動くのかも、一歩も分かっていない。アンケートのあとにインタビューを足す価値は、数字を確かめることではなく、数字が説明できなかったところを掘ることにあります。

この記事は、アンケート(定量)で見えた差を、深掘りインタビュー(定性)につなぐ設計の手順です。集計表のどのセルを掘る対象に選ぶか。その差をどんな問いに翻訳するか。聞いた話をどう読めば「確認」に堕ちずに機序と仮説まで届くか。この三つを、自分で組めるところまで進みます。量と質の使い分け自体はミックスメソッドという混合研究法の考え方で、ここではその中の「量で傾向をつかみ、後から質で説明する」型を実務手順に落とします。

例は、とある街のベーカリーです。来店客に満足度アンケートを取ったところ、ある目的の客だけ満足度が低かった。その一点を深掘りインタビューへ持っていく、という設定です。

このあと出てくる数字・発言・プロフィールは、すべて説明のために作った架空データです。実在の店舗や市場を示すものではありません。

アンケートのあとは、説明できない差だけを追う

インタビューは高くつきます。1 人 1 時間、それを何人ぶんも聞いて、書き起こして、読む。だから、アンケートの結果を全部おさらいするために使ってはいけません。掘る価値があるのは、定量だけでは説明がつかなかった差と、数字の想定を裏切った自由記述の二つに絞られます。

このベーカリーのアンケートは、直近 1 か月に購入した客に配り、対象外を除いた分析ベースが 200 件でした。総合満足度(5 段階)の「満足」(4 か 5、以下 top2)は全体で 64.5%。悪くありません。ところが利用目的で割ると、一箇所だけ景色が違いました。

表 1。入力=総合満足度(Q3)を「満足 top2=4 か 5」に再符号化し、主な利用目的(Q1)で割ったもの。行%の分母は各目的の回答者数。丸めは小数第 1 位。

主な利用目的満足 top2 の人数 / 回答者top2 率
朝食・日常のパン58 / 8270.7%
ランチ・食事29 / 4465.9%
おやつ・自分のご褒美27 / 4067.5%
手土産・ギフト15 / 3444.1%

朝食・ランチ・おやつは 66〜71% でほぼ横並びなのに、手土産・ギフト目的だけが 44.1%。他より 20 ポイントほど低い。ここが、掘る価値のある一点です。

なぜ「価値がある」と言えるか。手土産客はきっと単価が高く、期待も高い客層のはず。その層の満足だけが沈んでいるのは、店にとって取りこぼしが大きい。しかも数字は「手土産客の満足が低い」までしか教えてくれず、その先が真っ暗です。差の大きさ(規模)を測るのは定量の仕事で、その差の中身(意味)を照らすのは定性の仕事です。ここから先は定量では進めません。クロス集計は、ある値を別の変数の水準ごとに割った条件付きの分布で、群の間に差があることは示せても、その差がなぜ生まれたかは語らない、という道具の限界です。

聞く相手は、定量の回答から選ぶ

掘る差が決まったら、次は「誰に聞くか」です。ここで街頭で手土産客を捕まえ直す必要はありません。アンケートの回答そのものが、対象者名簿になります

インタビューの対象者は、母集団を代表させるために無作為に選ぶのではなく、知りたいことがいちばん濃く出ている人を目的に沿って選びます。定性調査では、少数を意図的に選んで深く聞くのが基本の考え方です。今回なら条件は明確で、主目的が手土産・ギフト(Q1=gift)で、かつ満足していない(Q3 が 3 以下)人。この条件に当てはまる回答者を、アンケートの連絡可否欄から辿って再連絡します。

何人聞くかは、テーマの複雑さによりますが、1 セグメントを深掘りするなら 5〜8 人あたりから始めるのが目安です(数理的に決まる値ではなく、実務の目安です)。同じ話が繰り返し出て新しい発見が減ってきたら(理論的飽和に近づいたら)、そこで止めて構いません。少数でいい代わりに、対象条件を外すと一気に濁ります。満足している手土産客まで混ぜると、「なぜ沈んでいるのか」がぼやけます。掘りたい差を持っている人だけを、定量の回答から名指しで選びます。これが最初の分かれ目だ。

浮いたセルを「なぜ」に翻訳する

対象者は決まった。では手土産客に会って、何を聞くのか。ここで「手土産のとき、満足度が低いのはなぜですか」と直球で聞いてはいけません。それは研究の側が立てた問いであって、相手が日常の言葉で答えられる質問ではありません。面接で口にする質問は、研究の問いとは別に、相手が自分の体験として語れる形へ翻訳する必要があります。

翻訳の前に、定量の側でもう一手打ちます。「手土産客の満足が低い」に、分かりやすい別の説明がついてしまわないかを潰しておくのです。いちばんありそうなのは「手土産客はたまにしか来ない客で、低頻度の客はそもそも満足が低いだけ」という説明。これを来店頻度で確かめます。

表 2。入力=主目的(Q1)× 来店頻度(Q2)の回答者数(人数のクロス)。各セルは人数、右端は目的ごとの合計。

主な利用目的週 4 回以上週 1〜3 回月 2〜3 回月 1 回以下
朝食・日常のパン283016882
ランチ・食事101612644
おやつ・自分のご褒美412131140
手土産・ギフト41011934

手土産客は低頻度に固まってはいません。週 1 回以上の常連も 14 人います。そして頻度そのものの満足差は、思ったより緩やかでした。

表 3。入力=満足 top2(Q3 が 4 か 5)を来店頻度(Q2)で割ったもの。行%の分母は各頻度の回答者数。丸めは小数第 1 位。

来店頻度満足 top2 の人数 / 回答者top2 率
週 4 回以上32 / 4669.6%
週 1〜3 回45 / 6866.2%
月 2〜3 回33 / 5263.5%
月 1 回以下19 / 3455.9%

頻度の勾配は、いちばん上と下で 14 ポイントほど。かりに手土産客の低さが頻度だけで説明できるなら、手土産客の満足は 63.0% 前後になるはずでした(表 2 の手土産客の頻度構成で、表 3 の頻度別 top2 率を加重平均した値)。実測は 44.1%。頻度で説明しても、まだ 19 ポイント近い差が残ります。年代で割っても手土産客は 20 代以下・30 代・40 代・50 代以上に 8・8・9・9 人とほぼ均等で、特定世代の偏りでもない。思いつく軸を当てても消えない差——これが、インタビューで「なぜ」を掘るべき対象です。

もう一つ、手がかりがありました。手土産客のうち満足の低かった人の自由回答14 件)を読むと、味やおいしさの不満ではなく、「箱が簡素で気後れした」「日持ちがしない」「のしに対応していない」「個包装がなく配りにくい」——渡す場面の話に偏っていたのです。想定していたのは味の評価だったのに、返ってきたのは贈り物としての使い勝手でした。この裏切りが、問いの向きを決めます。

だから手土産客に翻訳して聞く問いは、「満足度が低い理由」ではなく、「その手土産を、誰に、どんな場面で渡したのか。渡すまでに何を気にしたのか」になります。低いと決めつけず、贈るという体験そのものを具体的にたどる。誘導を避け、相手の場面から語ってもらうための言い換えです。差を問いに変えるとは、こういうことです。

問いをインタビューガイドに落とす

問いの向きが決まれば、あとはそれを 1 対 1 のデプスインタビューで掘るガイドに落とします。ガイドの組み立て方そのものはインタビューガイドの作り方にゆずり、ここでは「浮いたセルを掘る」ために外せないトピックだけを置きます。

以下は説明用の深掘りインタビューガイド例(1 対 1・45 分前後)。対象は「手土産目的で、満足していない」客。

リサーチクエスチョン:手土産・ギフト目的の客は、どんな場面で何を期待し、どこで期待が外れたのか。

■ 直近の贈った場面 ・呼び水:「最近この店のパンを手土産にしたときのことを、順を追って教えてください」 ・掘る:誰に渡しましたか/どんな集まりでしたか/渡すまでに何を準備しましたか

■ 選ぶときに比べたもの ・呼び水:「手土産を決めるとき、他にどんな候補と迷いましたか」 ・掘る:そのとき何で選びましたか/このパンの何がひっかかりましたか

■ 満足の中身 ・呼び水:「渡してみて、うまくいったところ・気を遣ったところはどこでしたか」 ・掘る:それはあなたにとってどう困りましたか/どうなっていれば安心でしたか

読み上げる質問は少なく、掘る余白を厚く取ります。狙いは、手土産客が「満足」という言葉に何を込めているのかを、贈った場面の具体からほどくことです。

聞いた話は、確認ではなく機序として読む

インタビューが終わり、手元に発言が並びます。ここが、いちばん間違えやすいところです。低満足の手土産客が不満を語ったからといって、それを「アンケートの数字が正しかった証拠」として読んではいけません。定性が担うのは、数字の確認ではなく、その数字がどういう仕組みで生まれたかの解釈です。

説明用の発言で、読み方をたどります。

以下は説明用に作成した仮想インタビューの抜粋です。

  • 客「パン自体はおいしいんですよ。ただ、親戚の集まりに持っていったら、箱が簡素で、ちょっと気後れして」→ 言ったこと(味は満足、包装が気になった)
  • わたし「その気後れは、どんなところから来ましたか」
  • 客「他の人がデパートの菓子折りを持ってきていて。並ぶと見劣りするな、と」→ 観察できること(比較対象は日常のパンではなく贈答品だった)
  • わたし「渡したあと、気を遣ったことはありましたか」
  • 客「日持ちしないので、その場で『早めに食べてね』と言い添えました。それが、ちょっと」→ 推測できること(満足を決めているのは味ではなく、贈る体験がうまくいくか)

三人ぶん、四人ぶんと同じ筋が重なると、機序の仮説が立ちます。手土産客にとっての満足は、パンのおいしさではなく「贈り物として恥ずかしくないか」で決まっていました。同じ「総合満足度」の設問でも、朝食客は味を、手土産客は贈答体験を評価していました。だから贈答対応(包装・のし・日持ち・個包装)が薄い店では、味が良くても手土産客の満足だけが沈む——これが、表 1 の 44.1% を説明する仕組みの仮説です。

ここで踏みとどまるべき線を、はっきりさせておきます。いま出たのは仮説であって、検証された結論ではない。数人の話から機序の見立てが立っただけで、「贈答対応を直せば手土産客の満足が上がる」と証明したわけではありません。定性は「なぜ・どう」の筋を与えるところまで。その筋が本当に効くかを確かめたければ、贈答対応の評価を測る設問を足した次のアンケートや、包装を変えた前後の比較といった、別の定量が要ります。聞いた話を機序として読むのは正しく、確認として読むのは間違いだ。

定量と定性を、ひとつの判断に編む

最後は、量と質を報告に統合します。よくある失敗は、報告書の前半にアンケートのグラフ、後半にインタビューの引用を並べて、両者が握手しないまま終わることです。それは足し算であって、混合ではありません。

統合とは、片方が出した問いに、もう片方が答える形でつなぐことです。今回なら、量が「手土産客の満足が 20 ポイント低く、頻度でも年代でも説明できない」という問いを立て、質が「満足の中身が味ではなく贈答体験だから」という機序で答える。ひとつの判断に編むと、こう畳めます。

どこ・どれだけ(定量): 手土産・ギフト目的の満足 top2 は 44.1%(15/34)。
  他目的より約 20pt 低く、来店頻度・年代では説明できない残差がある。
なぜ・どう(定性): 手土産客の満足は味ではなく贈答体験で決まる。
  包装・日持ち・のし・個包装の弱さが、味の良さを打ち消していた(仮説)。
次に確かめること: 贈答対応の評価設問を足した定量で、機序が効くかを検証。

集計そのものの手順はアンケート集計の全体像クロス集計の作り方に、二次データで市場側から裏を取る手順は姉妹記事のe-Stat の使い方にあります。量が別々の角度から同じ結論を指すならトライアンギュレーションとして強めに書けますが、量→質の順で掘った今回は、質が量を補強するのではなく量の問いに質が意味を与えている、という関係で書くのが正確です。

業者に出すときは、対象条件と統合まで頼む

アンケートは自社、深掘りインタビューは外注、という分担はよくあります。丸投げしないコツは、成果物を受け取る前に、逐語で聞ける質問を用意しておくことです。最低でも次は確認してください。

  • 対象者は誰か
    • 「インタビュー対象は、アンケートのどの回答条件で選びましたか(目的・満足度の絞り込み)」
  • 問いの向き
    • 「これは低い理由を確認する設計ですか、機序を探る設計ですか。誘導になっていない呼び水を見せてください」
  • 統合の仕方
    • 「定量が立てた問いに、定性がどう答える形で報告をつなぎますか」
  • 言い切りの強さ
    • 「この結論は検証済みですか、仮説ですか。仮説なら、次に何を測れば確かめられますか」

この四つにスラスラ答えられない相手だと、量と質が別々の章に並んだだけの報告が返ってきがちです。検収の場では、引用の生々しさよりも、問いと答えがつながっているかを見てください。

この設計でわかること、わからないこと

この手順にも、はっきりした限界があります。

まず、定性は因果を決めません。「贈答対応が弱いから満足が低い」のか「満足しない人が手土産という使い方をしがち」なのか、インタビューは区別しません。機序の仮説は与えますが、原因までは断定できません。

次に、ここで得たのは仮説で、検証は次の定量の仕事です。数人の深掘りは、筋を見つける力は強いが、それが母集団でも成り立つかは保証しません。少数を意図的に選んでいる以上、この結果を「手土産客全体はこうだ」と一般化してはいけません。

そして、この記事の数字と発言は、ぜんぶ架空の教材です。実在のベーカリーでも市場でもありません。ここで練習できたのは「浮いたセルを問いに翻訳し、機序として読む」という設計の型であって、「手土産のパンは包装が弱い」という事実ではない。

冒頭の、満足度が低いセグメントに「低いですよね」と確かめていた昔のわたしに、いま一言渡すなら、こうです。定量が指せるのは「どこ・どれだけ」まで。そこで真っ暗になった「なぜ・どう」に、確認ではなく解釈の光を当てるのが、深掘りインタビューの持ち場です。差を確かめに行くのではなく、差を問いに変えて会いに行く。それだけで、アンケートのあとの一時間が、まるで違う濃さになります。

参考文献

この記事の著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。