誘導質問

誘導質問とは、質問文の前提や言葉づかいが特定の答えへ偏っていて、回答者を意図せずその方向へ寄せてしまう不良設問のことです。

誘導質問を具体例で理解する

新商品の満足度を測ろうとして、こんな設問を書いたとする。

「多くの専門家が勧めるこの商品を、あなたも使いたいと思いますか?」

一見、普通の質問に見える。でも、答える前から空気ができている。専門家が勧めている。多くの人が支持している。そう言われて「いいえ」と言うには、ちょっとした勇気がいる。

結果、賛成率は高く出る。発注側は安心する。

ただ、その数字が映しているのは、商品の本当の支持だろうか。それとも、断りにくい聞き方への遠慮だろうか。

これが誘導質問である。

どこに偏りが埋め込まれるか

誘導は、たいてい次の三つのどれかに潜んでいる。

ひとつは前提の埋め込み。「すでに改善された〜」「人気の〜」のように、まだ合意していないことを事実として先に置く。

ふたつめは片方向への傾き。賛成への入り口だけがあり、反対側は言葉として用意されていない。「〜に賛成ですよね?」がその典型だ。

みっつめは感情語・権威づけ。「専門家が勧める」「安心の」といった評価の言葉が、判断より先に気持ちを動かす。

見抜くコツは単純で、設問を声に出して読み、反対の人が同じ熱量で答えられるかを確かめることだ。片方だけ答えやすいなら、その設問は傾いている。

なぜ回答者は寄ってしまうのか

寄ってしまうのは、回答者がいい加減だからではない。人は、質問者の期待を読み取り、それに沿おうとすることがある。心理学ではこれを需要特性(demand characteristics)と呼ぶ(Orne, 1962)。

加えて、「賛成/反対」「はい/いいえ」のように同意を求める形式では、内容にかかわらず「はい」側へ傾きやすい黙従傾向(acquiescence)が働く。設問が複雑なときほど、否定より同意が楽で、賛同の見かけが実際より膨らむことがある。

聞き方が答えを作る。

中立な聞き方へ直す

直し方は、偏りを足すのではなく、引き算で考える。

前提を外し、評価語と権威づけを削る。両側を対称に用意する。「あなたはこの商品を使いたいと思いますか」と素のまま聞くか、「使いたいと思う人もいれば、思わない人もいます。あなたはどちらですか」と両論を並べる。Schuman と Presser は、設問を肯定・否定の両方向で書いてみて、どちらかへ押していないかを確かめるよう勧めている(1981)。

ただし、形のうえで両側をそろえれば中立になる、とは限らない。彼らの古典的な実験では、ある演説を「禁止すべき」と聞くと賛成はおよそ半数なのに、同じ演説を「許可すべきでない」と聞き換えると 4 分の 3 近くに増えた。同じ規制でも、言葉ひとつで答えは動く。直した設問は、プリテストで反応を確かめるしかない。

誘導は集計表に残らない

最大の落とし穴は、誘導でふくらんだ賛成率を、商品やアイデアへの真の支持として読んでしまうことだ。

「使いたい 80%」という数字は、その聞き方のもとでの 80% でしかない。中立に聞き直せば、半分に縮むかもしれない。誘導された数字は、回答者の本心ではなく、設問のつくりを測っている。

この偏りは集計表のどこにも書かれない。きれいな棒グラフになり、本当の支持と見分けがつかなくなる。

誘導質問とは、欲しい答えが先にある問いである

調査を発注するとき、私たちは心のどこかで結果を期待している。これは売れてほしい。この企画は通したい。その願いは、知らないうちに設問の言葉ににじむ。

だから怖い。

中立な問いとは、答えを聞く問いだ。誘導質問とは、答え合わせをしたい問いだ。前者は仮説が外れる余地を残し、後者はそれを塞いでいる。

設問を書き終えたら、一度だけ自分に聞いてみたい。

この聞き方は、相手の答えを待っているか。それとも、欲しい答えへ誘っているか。

設問に映るのは、設計者自身の欲なのだと思う。

その鏡を覗けるうちは、まだ直せる。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。