トライアンギュレーション

トライアンギュレーションとは、一つの問いに対して複数の手法やデータ源、調査者の視点から証拠を集め、それらが重なるか食い違うかを読み取ることで、結論の確からしさを見極める考え方です。ひとことで言えば、複数の角度から確かめる、ということです。

もとは測量や航海の言葉で、離れた二点から同じ対象を見て位置を一点に定める技術を指す。それを調査に持ち込んだのがある社会学者(Denzin)で、一つの方法では見落とすものを、角度を変えて確かめにいく発想だ。

トライアンギュレーションを具体例で理解する

ある日用品メーカーが、新しい洗剤の評価を調べたとする。

アンケートでは「満足」と答えた人が 80% にのぼった。数字だけ見れば、上々の手応えだ。

ただ、それで「売れる」と判断するのは早い。そこで同じ問いを別の角度から確かめる。購入者数人にデプスインタビューをすると、「香りは気に入ったが、詰め替えが固くて手こずる」という声が重なる。さらに購買データを見ると、初回は買っても二回目につながっていない。

「満足」という一つの数字を、聞き方の違う三つの証拠で挟み込む。すると、その満足の内訳と、先で起きていることが立体的に見えてくる。これがトライアンギュレーションだ。

トライアンギュレーションの仕組み

確かめ方の「角度」は、大きく四種類ある。同じ問いを別の場面や時期、別の人から見る「データ」(誰に・いつ聞くかを変える)、複数の調査者の目を通す「調査者」(見る人を変える)、複数の理論の枠で解釈する「理論」(解釈の枠を変える)、性質の違う手法を組み合わせる「方法論」(聞き方そのものを変える)の四つだ。

実務でまず効くのは、最後の方法論の角度だ。これには、アンケートとインタビューのように土台の違う手法を掛けるやり方と、聞き方を変えた複数のインタビューのように一つの手法の中で変化をつけるやり方がある。

どの角度を、いつ足すか

増やせばいいわけではない。不安の中身に合わせて、足す角度を選ぶ。

  • 集計結果そのものが本当か不安なら、性質の違う手法を足す(方法論)。洗剤の例で、アンケートに購買データを重ねたのがこれだ。
  • 一部の人の声に偏っていないか心配なら、対象や時期を変えて集める(データ)。
  • 解釈が分析者の主観に寄っていないか不安なら、別の担当者にも同じ材料を見てもらう(調査者)。

そして肝心なのは、集めたあとの読み方だ。証拠が重なれば、結論は信じやすくなる。問題は、食い違ったときである。これを「どちらかが間違い」とだけ捉えると、せっかくの手がかりを捨てることになる。アンケートでは満足、インタビューでは不満。この食い違いは誤りとは限らない。「満足」が香りへの満足で、不満が使い勝手への不満だったように、同じ対象の別の面を映す。食い違いは、次に掘るべき場所を指している。

トライアンギュレーションでわからないこと

手法を増やせば正しくなる、というものではない。

トライアンギュレーションは、複数の証拠が「一つの真実」に収束することを暗に期待しがちだ。けれど、特に人の言葉や行動を扱う定性のデータでは、別の手法が別の側面を捉えるのはむしろ自然で、収束しないことのほうが常態に近い。ずれること自体に意味があることも多い。結果を無理に一致させれば、都合のいい証拠だけが残る。

角度を足すことと、判断することは別だ。証拠をどう重ね、食い違いをどう読むかは、最後は人が引き受けるしかない。

ずれ幅にこそ、対象の奥行きがある

調査の経験が浅いうちは、一つのきれいな数字が出ると、それで決めたくなる。けれど、一方向から見た景色は、一方向ぶんの真実しか映さない。

だからこそ、角度を変える。アンケートで見えたものを、インタビューや行動の記録と突き合わせる。線がきれいに重なれば、確信の支えになる。

けれど、定性のデータでは線が一点に交わらないことのほうが多い。そのずれは、精度の不足ではない。ずれ方そのものが、一つの角度では映らなかった対象の別の面を指している。

証拠を一点に縮めるより、ずれた幅を読むほうに、調査の値打ちはあるのだと思う。線が交わらないその隙間にこそ、一つの角度では映らなかった奥行きがある。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。