インタビューガイドの作り方:台本ではなく「地図」を作る(テンプレート付き)
目次
「えー、次の質問です。このツールを契約した決め手は、次のうちどれですか」
数年前のわたしは、A4 に印刷した 20 個の質問リストを握りしめて、インタビューの席に座っていました。上から順に読み上げ、答えをメモし、はい次、はい次。終わってから録音を聞き返すと、相手が「あ、それで思い出したんですけど」と話しかけているのに、わたしは「では次の質問です」とかぶせていました。相手の話を、聞いていなかったのです。
この記事のゴールは、手元の質問リストを、そのまま面接で使える 1 枚もののインタビューガイドに組み替えられる状態です。テンプレートも最後に置きました。読んでほしいのは、外注か自前かを問わず、ガイドの設計を人任せにしたくない方。定性の理論は専門でなくて大丈夫です。
ガイド作りでいちばん悔しい失敗は、質問の言い回しでも、質問の数でもありません。ガイドを「台本」、つまりアンケートを口頭でやるための読み上げ原稿だと思い込むことです。
この思い込みは、だいたい 2 つの顔で表に出ます。1 つは、リサーチクエスチョン(RQ、その調査で明らかにしたい問い)をそのまま質問文にしてしまうこと。「なぜ解約を考えるのか」という研究の問いを、そのまま「なぜ解約を考えるんですか?」と本人にぶつけてしまいます。もう 1 つは、空いた行を誘導質問で埋めてしまうこと。「請求書機能、便利ですよね?」といった調子です。どちらも、せっかくの半構造化インタビューを、出来の悪い口頭アンケートに変えてしまいます。
説明には、業務用ツールを 1 つ使います。個人事業主の事務作業を助けるツールで、請求書作成・顧客管理・スケジュールなどが入っている、という設定です。明らかにしたい問いは 1 本だけ。有料プランを契約している個人事業主は、どんな場面で価値を感じ、どんな場面で解約を考えるのか。これを、1 対 1 で 45〜60 分のデプスインタビュー(相手 1 人から深く聞く面接)で掘ります。この 1 本の問いを、20 問の箇条書きから 1 枚もののガイドへ育てていきます。
これから出てくるサービス・受け答え・ガイドは、すべて説明のために用意した架空の例です。実在の製品や人物ではありません。身につけてほしいのは、このツールの実態ではなく、ガイドの作り方のほうだ、という前提で読んでください。
その「質問リスト」、たぶん台本になっている
箇条書きを終えて「これで面接できる」と思ったその瞬間が、いちばん危ない。書き上げた 20 問を、声に出して読んでみてください。上から順に読み上げる前提になっていたら、それは台本です。どんなものか、悪い見本を先に出します。
・このツールを契約した決め手は何ですか ・料金プランはどれを使っていますか ・請求書機能は便利ですか ・使いやすいですか ・(このあと 16 問つづく……)
上から順に読み上げて、はい次、はい次。これだと、相手が「あ、それで思い出したんですけど」と差し込んでくる隙を、こちらから潰してしまいます。
では、台本の何が問題なのか。半構造化インタビューを素朴に定義しておきます。半構造化インタビューとは、聞くテーマの枠だけ決めておいて、実際の質問の文言や順番は会話の流れに合わせて動かす面接のやり方のことです。枠はある。でも一言一句は決めない。この「枠はあるが台本ではない」状態をつくる道具が、インタビューガイドです。
方法論のレビューでも、この点ははっきり言われています。Kallio ら(2016)は、半構造化面接のガイドを「参加者主導で会話が流れることを許す、ゆるやかな道具」と位置づけました。ガイドは、面接を縛るための台本ではなく、脱線しても戻ってこられるための地図だ、というわけです(これは方法論レビューが整理した作法であって、数理的な決まりではありません。この記事に出てくる作法上の合意は、以降も同じ性格のものです)。
台本と地図は、何が違うのか。1 枚で対比します。
| 台本(アンケートの口頭版) | 地図(半構造化ガイド) | |
|---|---|---|
| 中身 | 読み上げる質問文を 20 個ならべる | 探るトピックと、そこで聞きたいことを置く |
| 順番 | 決めた順に、上から読む | 会話の流れで前後してよい |
| 面接者の仕事 | 質問を読み、答えを書き取る | 相手の話を聞き、掘る先をその場で選ぶ |
| 予想外の話 | 台本にないので拾えない | 地図の余白で拾える |
| 深さ | 質問の数だけ | 追い聞き(プローブ)の深さだけ |
同じ「質問を書く」作業に見えて、面接者の仕事はまるで別物になります。台本は読み上げる人を、地図は聞いて掘る人を前提にしている。ここが分かれ道です。
「地図でいいなら、準備はテキトーでいい?」と思うかもしれません。むしろ逆です。地図だからこそ、下ごしらえがいる。行き当たりばったりで歩ける地図は、地図とは言いません。以下では、「どこを・どの順に・どう掘るか」を、その地図に描き込んでいきます。
リサーチクエスチョンを「聞く場所」に割る
RQ を一文にらんだまま、「で、結局なにを聞けばいいの?」と固まる。これ、あるあるだと思います。
ここでいちばんやってはいけないのが、冒頭の 1 つ目の顔、RQ をそのまま質問文にすることです。「どんな場面で価値を感じ、どんな場面で解約を考えるのか」を、そのまま「あなたはどんな場面で価値を感じ、どんな場面で解約を考えますか?」と聞く。相手は答えられません。それは、こちらが答えを出すために立てた研究の問いであって、相手の生活の言葉ではないからです。
教科書は、この 2 つをはっきり分けて考えます。Kvale と Brinkmann は、研究の問い(リサーチクエスチョン)と、面接で実際に口にする質問は、別物として設計すると説きます。研究の問いは抽象的・分析的な言葉で書かれ、面接質問は相手が日常の言葉で答えられる、具体的で会話的な言葉で書かれる。ガイド作りとは、前者を後者へ翻訳する作業だ、というわけです。
翻訳の第一歩が、RQ をトピック(聞く場所)に割ることです。Kallio ら(2016)のガイド作成フレームでいうと、既に分かっていること・自分の仮説を棚卸しして、「まだ分からない場所」をトピックに立てる工程にあたります。
例の問いを割ってみます。定量で「解約者は低頻度層に多い」あたりは分かっている、という前提で、まだ分からない「場面」を 4 つのトピックに置きました。各トピックには、そこで知りたい一文を添えます。
- トピック 1/契約前後
- 何をきっかけに、どんな期待で契約したのか。
- トピック 2/日常の使い方
- ふだん、どの場面で・どんな流れで使っているのか。
- トピック 3/価値を感じた場面
- 「これは効いた」と思った、具体的な瞬間はどこか。
- トピック 4/解約が頭をよぎった場面
- 「やめようか」と思った、具体的な瞬間はどこか。
トピックはこのくらいの粗さ、3〜5 個に留めるのがいいと思います(数字はどれも著者の目安で、統計的な最適値ではありません)。ここで 10 個も 15 個も割ると、結局それは細かい質問リスト、つまり台本に逆戻りします。粗く割って、細部は現場で相手に合わせて掘る。それが地図の使い方です。
「知りたい一文」を添えるのがミソです。これがあると、面接中に相手の話が横道にそれても、「あ、いまトピック 3 の効いた瞬間が、まだ埋まっていない」と、地図の上で自分の現在地が分かります。台本を見失うと迷子になりますが、地図なら現在地が読めるのです。
並び順で「会話の弧」を作る
トピックは出ました。次は「どの順で聞くか」です。いきなりトピック 4 の「解約が頭をよぎった場面は?」から入ったら、どうなるか。初対面の人が、いきなり不満をえぐられて、身構えますよね。順番には、順番の設計がいります。
面接には、ゆるやかな会話の弧があります。Kvale と Brinkmann は面接の局面を、導入(briefing)→ 本編 → 締め(debriefing)と描きました。ざっくり言うと、こういう弧です。
- オープニング(ラポール)
- ラポール(警戒を解いて話しやすい空気)をつくる時間。あいさつ・目的・録音の許可・守秘・任意参加を説明し、「正解も間違いもありません」で締める。
- 答えやすいが退屈でない、具体の出来事
- いきなり本題や属性を聞かず、最近の具体的な一場面から入る。
- 本題
- トピックを、体験 → 評価 → 理由の順に掘る。
- クロージング
- 言い残しを拾い、お礼を言って閉じる。
2 番目が、地味に大事です。「答えやすいことから」と言うと、つい「お仕事は何年目ですか」「従業員は何名ですか」といった属性の聞き取りから始めたくなる。でも Patton は、背景・属性を問う質問は退屈で、相手を回答者モードにしてしまうので、最小限に、できれば最後にと言います。開始直後は、相手がいちばん警戒している時間帯。そこを属性の穴埋めで潰すのはもったいない。
だから、答えやすさと面白さを両立させます。例なら、こんな入り方です。「最近、このツールを最後に開いたのは、いつ、何のためでしたか」。直近の・具体的な・1 つの出来事。これなら誰でも答えられるし、答えた瞬間に、その人の生活の場面が 1 つ立ち上がります。ここから本題へ入れます。
本題の中の順番も、Patton の指針が効きます。まず行動・体験(実際に何をしたか)を聞き、意見・価値(どう思うか・何を大事にするか)は後に回す。人は、抽象的な意見から先に聞かれると、建前や正解っぽいことを言いがちだからです。先に具体的な体験を語ってもらい、その体験に足をつけたまま、評価や理由へ昇っていく。各トピックを「体験 → 評価 → 理由」の小さな弧で組みます。
ちなみに、この「広く易しく入って、だんだん核心へ絞る」形は、グループインタビューの教科書ではファネル(じょうご)と呼ばれます(Krueger と Casey)。もとは FGI の並べ方ですが、いちばん聞きたい核心から逆算して前段を組む、という発想だけ、1 対 1 にも借りておきます。
各トピックに「最初のひと言」を書く
弧はできました。いよいよ、各トピックの「最初のひと言」を書きます。ルールは 2 つだけ。オープンに開くことと、1 問 1 論点にすることです。
オープン質問とは、はい/いいえや選択肢で終わらず、相手が自分の言葉で語れる問いのこと。Patton はこれを “truly open-ended”(ほんとうに開かれた)と呼び、選択肢を暗に含んだ質問と区別します。「このツールは使いやすいですか?」は、はい/いいえで終わる(しかも「使いやすい」という枠をこちらが押しつけている)。対して「このツールを、ふだんどう使っているか、順を追って教えてもらえますか」なら、相手の言葉で場面が出てきます。
もう 1 つの 1 問 1 論点は、一度に 1 つのことだけ聞く、ということ。これを破るとダブルバーレル質問(1 つの文に 2 つの問いが詰まった質問)になります。「請求書機能は便利で、使いやすいですか?」は、便利さと使いやすさという別の話を一度に聞いていて、相手はどっちに答えればいいか分かりません。
ここで、冒頭の 2 つ目の顔、誘導で埋めてしまう問題が絡んできます。左が台本になりがちな悪い例、右がガイドに置くオープンな呼び水です。
| トピック | ありがちな呼び水(クローズ・誘導・ダブルバーレル) | 直したオープンな呼び水(中立・単一) |
|---|---|---|
| 1 契約前後 | 「価格が決め手で契約したんですよね?」 | 「契約しようと決めた、そのときのことを教えてください」 |
| 2 日常の使い方 | 「毎日使っていますか?」 | 「直近の 1 週間で、このツールを開いた場面を思い出せますか」 |
| 3 価値を感じた場面 | 「請求書機能が便利で使いやすいですよね?」 | 「これは助かった、と感じた場面はありましたか」 |
| 4 解約が頭をよぎった場面 | 「不満があるとしたら価格ですか?」 | 「もう解約しようかな、とよぎった瞬間はありましたか」 |
右の列は、どれも答えを先に言っていません。「価格が決め手」も「便利」も「不満は価格」も、こちらの仮説を相手の口に押し込む誘導質問です。それをやめて、場面をオープンに開くだけで、返ってくる話の濃さが、まるで変わります。誘導の見分け方や類型そのものは奥が深いので、別立ての誘導質問の実例で扱います。ここでは「呼び水を中立に開く」ところまで。
大事なのは、ガイドに書く質問は、各トピックに 1 本の呼び水だけでいいということ。20 問ぜんぶは書きません。1 本開けば、あとは相手の答えから掘っていきます。
質問タイプの早見表を手元に置く
呼び水を書くとき、そして掘るとき、頭の中に「質問の引き出し」があると強い。Patton は面接質問を 6 つのタイプに分けています。左が Patton の六分類、右がガイドでの使いどころです。
| 質問タイプ(Patton の六分類) | 実務語でいうと | ガイドでの使いどころ |
|---|---|---|
| 体験・行動 | 実際に何をした/どうしたか | 本題の入り口。まずここから |
| 意見・価値 | どう考えるか・何を大事にするか | 体験のあと。掘り下げの終着点 |
| 感情 | そのとき、どう感じたか | 体験に色をつける |
| 知識 | 何を知っているか | 事実確認。使いすぎ注意 |
| 感覚 | 何を見た・聞いた・触れたか | 場面を鮮明にする |
| 背景・属性 | 何者か(年数・規模など) | 最小限。できれば最後に |
呼び水は「体験・行動」で開くのが基本です。感情や価値は、体験の上に後から乗せる。背景・属性は、最小限で、最後に。引き出しを持っていると、面接中に「いま体験ばかり聞いていて、感情を拾えていないな」と気づけます。
「なぜ?」と言わずに深掘りする
相手が短く答えて、こちらの「で、なぜですか?」が喉まで出かかる。この瞬間の振る舞いで、インタビューの深さが決まります。
まず、追い聞き(プローブ)を定義します。プローブとは、相手の答えをさらに掘るための短い問いや促しのこと。Kvale と Brinkmann が挙げる 9 種の面接質問には、掘る系だけでも probing(探る)・specifying(具体化する)・follow-up(追う)、それに silence(沈黙)まで含まれます。そう、黙って待つのも立派なプローブです(沈黙が気まずくて、つい自分がしゃべって答えを埋めてしまう。わたしの悪癖です)。
問題は、その掘り方として真っ先に浮かぶ「なぜ?」が、じつは扱いの難しい質問だということ。Patton は、“なぜ” を問うときは注意せよ、とわざわざ節を割いています。「なぜ解約を?」と直球で聞かれると、人は身構えて、後づけの理屈(防衛的な、もっともらしい理由)を作りがちだから。因果を本人に推測させることにもなる。「なぜ」は禁止ではないけれど、多用すると、相手を言い訳モードに押し込んでしまいます。
では、「なぜ」を使わずに、どうやって理由や価値まで降りるか。ここで登場するのがラダリングです。
ラダリングで、属性から価値へ昇る
ラダリングとは、Reynolds と Gutman が 1988 年に定式化した深掘りの技法で、ものの属性(attribute)→ それがもたらす結果・便益(consequence)→ その人が大事にしている価値(value)という 3 段のはしご(ladder)を、下から順に昇っていくものです。もともとは広告・マーケティング研究で、消費者が製品に感じる意味の連鎖(means-end chain)を引き出すために作られました。
昇るときの魔法の言葉が、「なぜ?」ではなく「それは、あなたにとってどう役立ちますか/どんな意味がありますか」です。同じ「理由を聞く」でも、詰問にならず、相手を一段ずつ上へ連れて行けます。
例で、実際にたどってみます。以下は説明用の仮想インタビュー抜粋です。矢印の右に、いまはしごの何段目かを示しました。
- わたし「このツールで、これは助かった、と感じた場面はありましたか」
- 相手「請求書のテンプレがあるのは、助かってます」 → 属性(テンプレという機能がある)
- わたし「そのテンプレがあると、あなたにとってはどう助かるんでしょう」
- 相手「毎月末の請求作業が、前は半日つぶれてたのが、30 分で終わるんですよ」 → 結果(作業時間が減る)
- わたし「その、時間が浮くというのは、あなたにとってどんな意味がありますか」
- 相手「浮いた時間を、本業のデザインに回せる。締切前に、もう慌てなくなった」 → さらに上の結果
- わたし「締切前に慌てなくてよくなって、いちばんうれしいのは、どんなところですか」
- 相手「……一人でやってても、ちゃんと事業として回せてる、って思える。そこが、いちばんでかいかも」 → 価値
「請求書テンプレが便利」という機能の話から始めて、属性 → 結果 → 価値と 3 段昇り、「一人でも事業として回せている自負」という、その人がほんとうに大事にしているものまで降りてきました。しかも、一度も「なぜ?」を使っていません。全部「どう役立つ/どんな意味が」で昇っています。
だからガイドには、呼び水質問の下にプローブの引き出しを数本、添えておきます。たとえばこんな具合です。
・具体的には、どんな場面でしたか?(specifying:具体化) ・そのとき、何をしましたか?(follow-up:行動を追う) ・それは、あなたにとってどう役立ちますか?(laddering:一段上へ) ・(相手が考えていそうなら)……(silence:黙って待つ)
呼び水が目的地、プローブがそこから伸びる小道です。目的地だけ決めて、小道は相手に合わせて選ぶ。台本にはこの小道が描けません。
1 つ注意です。ラダリングを機械的に繰り返すと、「で、それは? で、それは?」の詰問になって、相手が引きます。言い換えたり、沈黙で待ったり、相手の言葉をそのまま返したりを混ぜて、あくまで会話として昇る。はしごは、押し上げるものではなく、一緒に昇るものです。
45〜60 分に収める
ここまでで、地図の中身はだいぶ濃くなりました。丁寧に掘ったら、2 時間コースになりかねません。ガイドは、放っておくと盛りだくさんになります。
そこで時間配分です。デプスインタビューは 1 対 1 で 45〜60 分あたりが目安とされます。ここから先に出てくる時間・質問数・トピック数の数字は、どれも業界の慣行と経験則から来た目安で、統計的に決まる値ではありません。テーマや相手の集中力で動きます。この持ち時間を、トピックに配っていきます。ポイントは、key トピックにプローブの「間」を厚く取ること。掘る時間を計算に入れないと、必ず時間が足りなくなります。
下表は計測値ではなく、配分の目安です。合計は 45〜60 分の幅のおおよそ中間、55 分あたりに置き、各時間は 5 分単位に丸めました。★は、時間が押したら削らずに死守する must-ask のトピック。プローブに使う「間」は、key トピックの時間に含めています。
| 局面/トピック | 目安(分) | メモ |
|---|---|---|
| オープニング(ラポール・説明・録音許可) | 5 | 警戒を解く。ここは削らない |
| 導入(最近の具体エピソード) | 5 | 答えやすい入り口 |
| トピック 1/契約前後 | 8 | 体験から |
| トピック 2/日常の使い方 | 8 | 行動を具体的に |
| ★トピック 3/価値を感じた場面 | 12 | ラダリングを厚く |
| ★トピック 4/解約が頭をよぎった場面 | 12 | ラダリングを厚く |
| クロージング(言い残し・お礼) | 5 | 最後の一拾い |
| 合計 | 55 | 45〜60 分の中央 |
表を作ると、優先順位を決めざるをえなくなります。全部は掘れない。だから、must-ask(絶対に聞く)と nice-to-ask(余裕があれば)を分ける。例なら、RQ の核はトピック 3・4(価値と解約の場面)なので、そこに★をつけて時間を厚く積み、時間が押したらトピック 2 の細部から削る、と決めておく。
数字の出どころも正直に書いておきます。グループインタビューの教科書には 60〜90 分で opening に 1〜2 分、key に何分、といった配分例がありますが、あれはグループ(FGI)前提の数字で(Krueger と Casey)、1 対 1 にそのままは持ち込めません。だから、この配分も「こういう考え方で割る」という枠として受け取ってください。数字そのものは、あなたのテーマで動かすものです。
本番前に、必ず一度試す
ガイドが完成しました。「よし、これで発注/実施だ」と思ったところで、あと 1 工程だけ、絶対に飛ばさないでほしいものがあります。プリテスト、つまり本番前の試しです。
プリテストとは、本番と同じ条件でガイドを一度試して、まずいところを直す工程のこと。Kallio ら(2016)のガイド作成フレームでは、5 つのフェーズのうち第 4 フェーズにこのパイロットテストが明示されていて、内部やフィールドで試してガイドを改訂する、とされています。レビューは、この厳密さが結果の信頼性に効く、と結論づけています。
心構えを 1 つ。プリテストは、本番の予行演習ではありません。ガイド(地図)を直すための工程です。目的は、良いデータを取ることではなく、地図の描き間違いを見つけること。同僚 1 人でも、条件の近い人 1〜2 人でもいい。1 周まわして、次を見ます。プリテストで見るのは、こんなところです。
・相手が「え?」と聞き返した質問はどれか(言い回しが伝わっていない) ・沈黙が起きた箇所。それは考える沈黙か、質問が分からない沈黙か ・どのトピックで時間が押したか(配分の直し) ・自分がうっかり答えを口にして、誘導になっていた言い回しはないか ・前の話と噛み合わず、話が飛んだ順番はどこか
このリストで 1 周直してから、本番へ。外注するとしても、「試してから本番」を発注の条件に含めるのがおすすめです。完璧な地図を最初から描こうとしないこと。半構造化は現場で動かす前提なので、地図も一度歩いてみて直せばいい。
できあがった 1 枚もの(完成ガイド例)
ここまでの工程を全部乗せると、地図はこうなります。冒頭の「20 問の台本」が育った姿です。あなたの RQ に差し替えて使えます。
インタビューガイド:価値と解約の場面(1 対 1・45〜60 分)
リサーチクエスチョン:有料契約中の個人事業主は、どんな場面で価値を感じ、どんな場面で解約を考えるのか。
■ オープニング(5 分) ・あいさつ、目的と所要時間の共有、録音の許可。 ・守秘の約束と、録音データの使いみち(何に使い、どう保管し、いつ消すか)を伝える。 ・任意参加であることを伝える。答えたくない質問は飛ばしてよいし、途中でやめてもよい。 ・「正解も間違いもありません。うまく言えなくて大丈夫です。ふだんのことを、そのまま聞かせてください」
■ 導入(5 分) ・呼び水:「最近、このツールを最後に開いたのは、いつ、何のためでしたか」 ・プローブ:具体的には?/そのとき何を?
■ トピック 1/契約前後(8 分) ・知りたいこと:何をきっかけに、どんな期待で契約したか。 ・呼び水:「契約しようと決めた、そのときのことを教えてください」 ・プローブ:その前は何で困っていた?/他に何を検討?/決め手は?
■ トピック 2/日常の使い方(8 分) ・知りたいこと:ふだん、どの場面でどう使っているか。 ・呼び水:「直近の 1 週間で、このツールを開いた場面を思い出せますか」 ・プローブ:そのとき何を?/どんな流れで?
★ トピック 3/価値を感じた場面(12 分) ・知りたいこと:「効いた」と思った具体的な瞬間と、その意味。 ・呼び水:「これは助かった、と感じた場面はありましたか」 ・プローブ:具体的には?/それはどう役立つ?/それはあなたにとってどんな意味が?(ラダリング)
★ トピック 4/解約が頭をよぎった場面(12 分) ・知りたいこと:「やめようか」とよぎった具体的な瞬間と、その意味。 ・呼び水:「もう解約しようかな、とよぎった瞬間はありましたか」 ・プローブ:そのとき何が起きていた?/どうしましたか?/何が引っかかった?
■ クロージング(5 分) ・「今日いちばん話したかったことは、話せましたか」 ・「言い残したことはありますか」/お礼。
A4 一枚に収まります。読み上げる質問(呼び水)は、たった 5〜6 本。残りは全部プローブの引き出しと、知りたいことのメモです。20 問の台本と見比べると、質問の数はむしろ減っている。でも、掘れる深さは段違いです。
「質問、これだけ? 大丈夫?」と言われたら
このガイドを上司やクライアントに見せると、けっこうな確率でこう言われます。「呼び水、たった 5 個? もっと聞くことあるでしょ、大丈夫?」。即答を用意しておきましょう。
「はい、読み上げるのは 5 本の呼び水だけです。中身は、その下のプローブで相手に合わせて掘ります。質問を 20 個に増やすほど、相手の話を聞く時間が消えて、インタビューはアンケートに近づきます。少ないのは手抜きではなく、設計です」。質問が少ないガイドは、たしかに不安になります。でも、その不安こそ「台本の発想」の名残です。
外注するとき:届いたガイドを、この地図で検算する
自分で作らず、リサーチ会社に頼む場合もありますよね。あるいは、生成 AI にガイド案を吐かせる場合も。そのとき、届いた成果物を鵜呑みにせず、この 1 枚と照らし合わせて検算してほしい。丸投げの反対は、逐語で問い返せることです。ベンダーにそのまま聞ける質問にしておきます。
- 「このガイドの元になったリサーチクエスチョンは何ですか。1 文で言ってもらえますか」(RQ と噛み合っているか)
- 「各質問は、どのトピック=知りたいことに対応していますか」(トピックに割れているか)
- 「読み上げる想定の質問は、いくつありますか」(多すぎたら台本化のサイン)
- 「深掘り(プローブ)は、どこで・どう入れる設計ですか」(掘る道具が仕込まれているか)
- 「このガイドは、誰かに試しましたか。試して、どこを直しましたか」(プリテストを通ったか)
この 5 つを逐語で聞いて、相手がスラスラ答えれば、そのガイドは地図になっています。詰まるようなら、それはまだ台本かもしれない。作れなくても、検算はできる。ここが、発注側が握っておく手綱です。
この地図で描けること、描けないこと
正直に、限界を書きます。冒頭で「相手の話を聞いていなかった」と白状しましたが、地図を持てばそうならずに済むかというと、そんな単純な話でもありません。ここで扱った例が説明用の架空のものだ、というのも含めて、届く範囲を確かめておきます。
良いガイド ≠ 良いインタビューです。地図は、どこを掘るかを教えてくれるけれど、相手の話を聞く・沈黙を待つ・その場で道を選ぶ技術そのものは、地図の外にあります。実務書『Interviewing Users』で Portigal が念を押すのも、そこです。返ってくる答えを左右するのは、用意した質問文だけでなく、面接者のふるまいそのものだ、という点。ここは場数でしか育たない。わたしも今でも本番中に「次のプローブ、何だっけ」と一瞬フリーズします。地図は、その一瞬から復帰させてくれる道具であって、魔法ではありません。
ラダリングも万能ではありません。属性 → 結果 → 価値のはしごは、Reynolds と Gutman が広告・マーケティング研究の文脈で作ったもの。価値を引き出すのには強力ですが、あらゆるテーマに合うわけではないし、機械的に繰り返せば詰問になって逆効果です。
時間・質問数・トピック数の数字は、ぜんぶ目安です。45〜60 分も、3〜5 トピックも、業界慣行と著者の目安であって、統計的に導かれた最適値ではありません。テーマ・相手・持ち時間で、遠慮なく動かしてください。
プリテストも、良いデータを保証しません。あれはガイドを直す工程で、本番でいい話が聞けるかは、また別。半構造化は現場で動く前提なので、地図は本番中もこっそり書き換わっていきます。
そして最大の限界。紙のガイドは、実際に人に会って話を聞いて、はじめて意味を持ちます。この記事で扱ったのは、地図の描き方だけ。対象者を集めるリクルーティングも、実際の面接も、聞いた話をどう解釈するかも、この 1 枚の外にあります。そこから先まで含めた全体像は、インタビュー調査の全体像で見渡せます。地図があれば旅に出られる、というだけで、旅そのものはこれからです。
おわりに
数年前のわたしが握っていた、20 問の台本。それが、この記事を通って、トピック 4 つ × 呼び水 × プローブ × 時間配分の、1 枚ものの地図に変わりました。質問の数は減ったのに、掘れる深さは増えた。不思議ですよね。
台本を握っていたころ、わたしは相手の言葉ではなく、次に読む質問のことばかり考えていました。地図を持って、はじめて顔を上げて、相手の話を聞けるようになった気がします。現在地さえ分かっていれば、脱線を怖がらなくていい。
もし手元に質問リストがあるなら、いちど声に出して読んでみてください。上から読み上げる台本になっていたら、今日の手順で、そっと地図に描き直してみる。それだけで、面接の景色が変わると思います。
参考文献
- Steinar Kvale & Svend Brinkmann『InterViews: Learning the Craft of Qualitative Research Interviewing』3rd ed., SAGE Publications, 2015. ISBN 9781452275727. https://us.sagepub.com/en-us/nam/interviews/book239402
- Michael Quinn Patton『Qualitative Research & Evaluation Methods』4th ed., SAGE Publications, 2015. ISBN 9781412972123. https://us.sagepub.com/en-us/nam/qualitative-research-evaluation-methods/book232962
- Thomas J. Reynolds & Jonathan Gutman “Laddering Theory, Method, Analysis, and Interpretation”『Journal of Advertising Research』28(1), 1988, pp.11–31. DOI: 10.1080/00218499.1988.12467766
- Hanna-Maria Kallio, Anna-Maija Pietilä, Martin Johnson & Mari Kangasniemi “Systematic methodological review: developing a framework for a qualitative semi-structured interview guide”『Journal of Advanced Nursing』72(12), 2016, pp.2954–2965. DOI: 10.1111/jan.13031
- Steve Portigal『Interviewing Users: How to Uncover Compelling Insights』2nd ed., Rosenfeld Media, 2023. ISBN 9781959029786
- Richard A. Krueger & Mary Anne Casey『Focus Groups: A Practical Guide for Applied Research』5th ed., SAGE Publications, 2015. ISBN 9781483365244. https://us.sagepub.com/en-us/nam/focus-groups/book243860