マーケティングリサーチ

マーケティングリサーチとは、ある意思決定の不確実性を下げるために、市場や顧客の情報を体系的に集めて解釈する活動の総称です。

「調査をやろう」となったとき、先に決まっているのは予算と納期で、何のために調べるのかは曖昧なまま進むことがある。まず、情報収集そのものが目的ではない、と押さえておきたい。

「何を調べるか」より「何を決めるか」から始まる

たとえば、新商品の値付けに迷っているとする。

1,200 円か、1,500 円か。社内の意見は割れていて決め手がない。ここで「お客さんに聞いてみよう」とアンケートを設計し始めるのが、発注側が最初に踏みやすい段差だ。順番が逆になっている。

先に決めるべきは「この結果がどう出たら、どちらにするのか」だ。1,500 円でも購入意向が一定以上なら強気でいく、割れたら 1,200 円にする——そう決めてから、はじめて「何を聞けば判断できるか」が立ち上がる。これは答えを買う行為ではなく、どの意思決定の不確実性を、いくら払って下げるかを選ぶ行為だ。聞きたいことから入ると、調べたが何も決まらない、となりやすい。

大まかな骨格

手順は手法で違うが、骨格はどの調査も共通する。

意思決定 → 問いの設定 → 手法の選択 → データ収集 → 解釈。

出発点は手法ではなく、決めたいことだ。意思決定から問いが出て、それに答えられる手法を選ぶ。この順なら調査は意思決定にひもづく。逆に「アンケートをやりたい」から始めると、立派な集計表は出ても、何の判断に効くのかが宙に浮く。

問いの型から手法を選ぶ

どの手法を選ぶかは、問いの性質で決まる。代表的な三つの軸を挙げる。

  • 定量/定性:「どれくらいか」を数で測るなら定量調査、「なぜそう思うのか」を言葉で深掘りするなら定性調査。許容価格を知りたいなら定量、解約の本当の理由なら定性。
  • 一次/二次:自分で新たに集めるのが一次、既存の統計やレポートを使うのが二次。まずデスクリサーチで分かることを潰し、足りない部分だけ一次調査に回すと無駄が出にくい。
  • アドホック/トラッキング:一度きりの問いに答えるのがアドホック、同じ指標を定期的に測り推移を追うのがトラッキング。ブランド認知の変化を見たいなら、継続して同じ条件で測る。

順番を「決めたいこと → 問い → 手法」に保てば、手法のカタログに引きずられずに済む。

集めた数字が示さないこと

最も避けたいのは、意思決定に紐づかない調査だ。やって満足する調査、眺めて終わる調査は、設計時に「この結果が出たらこう動く」を決めていないために起きる。

もう一つ、聞いたことが必ずしも行動を予測しない。「買いますか」に「はい」と答えた人が、実際に買うとは限らない。表明された購買意向と実際の行動にはずれがあり、質問されたこと自体が両者の結びつきを実態より強めてしまう場合もある(Chandon, Morwitz & Reinartz, 2005)。言行は一致しない、と織り込んでおきたい。

また、調査で差や関連が見えても、それは相関であって因果ではない。「広告を見た人ほど好意度が高い」のは、広告が好意を生んだのか、もともと好きな人が広告に目を留めただけなのか、それだけでは判別できない。

「市場調査」との関係

近い言葉に「市場調査(market survey)」がある。実務ではほぼ同義だが、整理すればマーケティングリサーチが上位概念で、市場調査はその一部だ。市場規模や動向の把握を指すときに市場調査と呼ぶことが多く、顧客の心理や購買理由まで含めるなら、より広いマーケティングリサーチのほうが収まりがいい。

設計で半分が決まる

調査の質は、データを集めたあとではなく、何を決めるために何を聞くかを定めた設計の時点で半分が決まっている。握るべきは、手法の細かさではない。この調査は、自分のどの判断の迷いを晴らすためのものか。それが言えていれば、数字は次の一手を選ぶ材料になる。

1,200 円か 1,500 円か。あの会議で足りなかったのは、どう出たらどちらを選ぶか、の一行だ。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。