e-Stat の使い方:欲しい統計を見つけ、定義まで確かめる手順

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「惣菜の市場、いま伸びてるんだよね? 数字で裏取っといて」。上司にそう言われて e-Stat を開くと、検索結果に似た名前の表が何十件も並びます。ここで手が滑ると、いちばん危険な取り違えが起きます。それっぽい表の数字をコピーして、別の調査の数字と並べてしまう取り違えです。

この記事で身につくのは、次の三つです。欲しい数字を e-Stat の統計にたどり着ける問いに翻訳すること。見つけた統計表を、数字より先に定義から読むこと。そして、別々の統計の数字を接ぎ木せずに使うこと。

例として、惣菜・中食のデスクリサーチを一つ、最後まで使います。あなたの会社が惣菜の宅配を新しく始めるか迷っていて、「家庭が惣菜や弁当類にいくら使い、ここ数年でどう動いたか」を知りたい、という場面です。問いは架空ですが、引く統計はすべて実在します。e-Stat は総務省統計局などが運営する政府統計の総合窓口で、700 を超える政府統計を横断検索できます。

欲しい数字を、答えられる問いに翻訳する

最初にやることは検索ではありません。欲しい数字を、統計が答えられる形の問いに直すことです。

「惣菜市場は伸びているか」は、そのままでは統計にぶつけられません。統計は、誰を・いつ・何の指標で測ったかがそろって初めて 1 つの数字を返します。だから問いも、その三つで書き直します。

  • 誰を
    • 全国の家庭(二人以上の世帯)か、事業者か、特定の年齢層か。
  • いつ
    • 直近 1 年か、5 年間の推移か、特定の月か。
  • 何の指標で
    • 1 世帯当たりの支出金額か、事業者の売上か、利用した人の割合か。

さきほどの場面なら、「全国の二人以上の世帯が、直近数年間で、調理食品に 1 世帯当たり年間いくら支出したか」と書けます。ここまで絞ると、探すべき統計はほぼ 1 つに決まります。問いを三つの軸で書けた時点で、探し物の半分は終わっています。

e-Stat の探し方を三つで使い分ける

e-Stat には統計データの探し方が三つあります。キーワード検索、分野から探す、組織から探す。使う場面が違います。

  • キーワード検索
    • 統計の名前や指標の見当がつくとき。「家計調査 調理食品」のように問いの言葉を入れる。いちばん速い。
  • 分野から探す
    • どの統計があるか自体を知らないとき。17 の分野から降りていく。家計の消費は「企業・家計・経済」、事業者の売上は「商業・サービス業」にある。
  • 組織から探す
    • 出どころの府省が分かっているとき。総務省・経済産業省など、府省の一覧から入る。

惣菜への家計支出を探すなら、キーワードに「家計調査」と入れ、政府統計名の「家計調査」に入るのが最短です。分野やキーワードで迷ったら、同じ問いを別の入口からもう一度たどると、取りこぼした関連統計に気づけます。ここで大事なのは、最初に出てきた表に飛びつかないこと。検索結果には集計単位も年も違う表が混ざっています。

統計表は「何を測った数字か」から読む

表にたどり着いたら、数字を見る前に表章項目を読みます。表章項目とは、その表のセルが何の値かを示す見出しのことです。

家計調査の「調理食品」を開くと、同じ品目でも金額・購入数量・平均価格という別々の表章項目があります。さらに分類が二つあります。品目そのもので括る品目分類と、何のための支出かで括る用途分類です。惣菜への支出を追うなら、品目分類の「食料」の下にある「調理食品」を選びます。

  • 表章項目
    • 金額なのか、数量なのか、割合なのか。惣菜の「支出額」を見たいのに数量の表を引くと話が合わなくなる。
  • 分類
    • 品目分類か用途分類か。同じ「調理食品」でも系統が違うと数字が違う。
  • 単位
    • 円か、百万円か、件か、パーセントか。表頭か表の欄外に必ず書いてある。

「調理食品」は、弁当・すし・おにぎり・調理パンといった主食的調理食品と、天ぷら・コロッケ・冷凍調理食品などの他の調理食品に分かれます。惣菜宅配で狙う品が主食寄りか惣菜寄りかで、見るべき下位区分が変わります。表章項目・分類・単位の三つを確かめる前の数字は、まだ数字ではありません。

母集団と調査時点を数字より先に確認する

次に確かめるのは、その数字が誰の・いつのものかです。ここを取り違えると、正しい表から誤った結論が出ます。

家計調査の消費支出には、二人以上の世帯・単身世帯・総世帯という三つの母集団があります。母集団とは、その統計が代表している集団のことです。同じ「調理食品への支出」でも、単身世帯と二人以上の世帯では 1 世帯当たりの金額が当然ちがう。惣菜宅配の主な客が単身層なら、二人以上の世帯の表だけ見ていては見立てを外します。

調査時点も同じ重さで効きます。家計調査は毎月調査していて、年次の値と月別の値があります。惣菜は年末やお盆で動くので、12 月の値を年間の平均のように扱うと過大に読みます。

  • 母集団
    • 二人以上の世帯か、単身か、総世帯か。事業者か、個人か。
  • 調査時点
    • 年次か月次か。直近年か、複数年平均か。

問いを立てたときに決めた「誰を・いつ」と、表の母集団・調査時点が一致しているか。ここを指さし確認してから、はじめてセルの数字を写します。

空欄を 0 と読まず、記号の凡例を先に読む

数字を写すとき、もう一つ落とし穴があります。統計表には数字のほかに記号が入っていて、意味が表ごとに決まっている点です。

多くの政府統計表では、「-」は該当する数字がないこと、「x」は秘匿(数値を公表しないこと)、「0」や「0.0」は単位に満たないこと、「…」は不詳を表します。秘匿とは、対象が少なすぎて個人や事業者が特定されうる場合などに、数値を伏せる扱いです。これを空欄と混同して 0 とみなすと、平均や合計が狂います。

とくにファイルをダウンロードして表計算ソフトで開くと、記号がそのままセルに入ってきます。集計の前に、記号をどう扱うか(除外するのか、欠損として印を付けるのか)を決めておく。記号の凡例は、表の欄外にある一番地味で一番大事な説明です。

ダウンロードはデータベース・ファイル・API から選ぶ

数字を手元に持ってくる方法は、用途で使い分けます。基準は、一度きりか、繰り返すか、量が多いかです。

  • データベース機能
    • サイト上で表を絞り込み、グラフや表で見てから必要な部分だけ取り出す。品目や年を選んで確かめながら使えるので、最初の一回に向く。
  • ファイルダウンロード
    • Excel・CSV・PDF をそのまま落とす。表計算ソフトで加工したいときはこれ。CSV は記号や桁区切りがそのまま入る点に注意する。
  • API 機能
    • プログラムから直接データを取る。毎月同じ表を自動で更新したいときに向く。利用登録してアプリケーション ID を取り、getStatsData などで XML か JSON を受け取る。

惣菜の支出を一度確かめたいだけなら、データベースで見て CSV に落とすところまでで足ります。ダッシュボードに毎月流し込むなら API を検討する。最初から API に手を伸ばす必要はありません。

使う前に、調査の概要と用語解説を読む

ここまでで数字は手元にあります。それでもまだ使いません。その統計の「調査の概要」と「用語の解説」を読むまでは。

食品を買うとき、パッケージの栄養成分表示を見ずに「たぶんこのくらい」で選ぶと、あとで想定と違う。統計も同じで、表の名前から想像した定義と、実際の定義はしばしばずれます。実際、家計調査の「調理食品」の中身は、多くの人が思う「惣菜」より広い。冷凍調理食品や、そうざい材料セットのような半調理品まで含みます。ここを読まずに「惣菜市場の家計支出」と言い切ると、定義より広い数字を狭い言葉で語ることになる。

確かめる項目は決まっています。

  • 調査の概要
    • 誰を対象に、どう抽出し、いつ調べたか。標本の大きさ(家計調査なら約 9,000 世帯)。
  • 用語の解説
    • その品目・指標が何を含み、何を含まないか。分類の改定があったか。

家計調査の品目分類は過去に改定されています(平成 27 年改定、2020 年改定、2025 年改定)。同じ「調理食品」でも改定で範囲が変わりうるので、古い年と新しい年をそのまま一本の推移としてつなぐと、実態でない段差が出る。定義を読むとは、この段差に気づくことでもあります。

別々の統計の数字を接ぎ木しない

ここでの取り違えが、あとでいちばん大きな代償になります。二つの統計から都合よく数字を借りて、一つのストーリーに接ぎ木することです。

惣菜の話で起こりがちなのは、家計調査の「1 世帯当たりの調理食品支出」と、事業者側の統計を並べて「だから市場はこの規模でこう伸びる」と語る筋です。ところが政府統計の中だけでも、指標はこれだけ食い違います。

  • 家計調査「調理食品」
    • 家庭が使ったお金。1 世帯当たりの支出金額、単位は円。
  • 経済センサス‐活動調査「料理品」など
    • 事業者が売ったお金。事業所の年間商品販売額、単位は百万円。
  • 国民健康・栄養調査の中食利用
    • 使ったかどうかの人の割合。金額でも売上でもない。

母集団(家計か事業者か人か)、定義(何を惣菜と数えるか)、調査時点(調査年)、単位(円か百万円か割合か)がそろって初めて、二つの数字は同じ土俵に乗ります。どれか一つでもずれていたら、掛け合わせも引き算も比較も成り立たない。数字を並べる前に、この四つが一致するかを確かめる。接ぎ木してよいのは、四つが一致したときだけだ。

これは統計だけの話ではありません。デスクリサーチ全般に効く原則です。二次データの扱い方そのものはデスクリサーチ二次データの用語ページにまとめてあります。

二次データで足りないなら、一次調査に渡す

e-Stat で分かるのは、すでに誰かが測ったことだけです。あなたの問いの核心が測られていないなら、そこで二次データは尽きます。

惣菜の例で言えば、「家庭がいくら使ったか」は家計調査が答えます。でも「なぜ手作りではなく惣菜を選んだのか」「どんな日に頼るのか」は、どの官庁統計にも載っていません。これは既存のデータ、つまり二次データの限界で、自分で新しく集める一次データの出番です。

二次データで市場の大きさと動きの当たりをつけ、答えの出ない「なぜ」を一次調査で掘る。この順番が効率的です。一次調査をどう組み立てるかはアンケート調査の全体像に、アンケートの数字の背後にある理由をインタビューで掘る設計はアンケート結果を深掘るインタビューの設計にまとめています。二次で輪郭を描き、一次で中身を埋める。デスクリサーチはその前半を担う工程です。

e-Stat の数字にも限界がある

最後に、e-Stat で分かることの外側をまとめます。

  • 測られていないことは分からない
    • 統計は過去に設計された調査項目しか答えない。新しい業態や細かい商品区分は載っていないことが多い。
  • 定義が自社の関心とずれる
    • 「調理食品」は惣菜より広い。統計の言葉と、あなたの事業で言う「惣菜」は完全には重ならない。
  • 速報性に限りがある
    • 集計・公表には時間がかかる。直近の急な変化は、統計に現れるまで遅れる。

これらは e-Stat の欠点ではなく、二次データの性質です。だからこそ、定義を読んで「この数字で何が言えて、何が言えないか」を自分の言葉で持っておく。持ち帰ってほしいのは三つです。欲しい数字は、誰を・いつ・何の指標で、の三軸の問いに翻訳する。統計表は、数字より先に表章項目・母集団・調査時点・記号・用語解説を読む。そして、母集団・定義・時点・単位が一致しない数字どうしを接ぎ木しない。この三つを守るだけで、デスクリサーチの信頼度は大きく変わります。

参考文献

この記事の著者 なお

戦略コンサルティングファームで大手クライアントの経営意思決定を支援してきました。ファクトや一次情報にあたるのは、若手の地道な仕事だと思われがちです。でも、上流の判断を任される立場になっても、結局ここに戻ってくる。大きな決断も、その途中の軌道修正も、最後にものを言うのはファクトだと考えています。