聞いていないことは比較できない。クロス集計のためのアンケート設計

目次

調査票は、回答を集めるための紙ではない。

あとで比較するための装置である。

アンケートを回収すると、ローデータが手元に残る。回答ID、満足度、利用頻度、継続意向、自由回答。表計算ソフトには、たしかに数字と文字が並ぶ。

しかし、そこにない列は比較できない。

初回設定でつまずいた人ほど不満が高いのか。利用目的によって満足の理由が違うのか。サポートに問い合わせた人だけが離脱しやすいのか。

こうした問いは、あとから思いついても、必要な設問がなければ表にできない。

クロス集計は、集計の技術である。けれど、よいクロス集計は集計画面ではじまらない。調査票を作る前にはじまっている。

クロス集計は、比較するための形式である

クロス集計とは、ある回答を別の回答や属性で分け、違いを見える形にする操作である。

たとえば、満足度を全体で見るだけでは、どの人が満足しているのかはわからない。利用頻度で分けると、毎日使う人と月1回だけ使う人の違いが見える。利用歴で分けると、新規ユーザーと長期ユーザーの違いが見える。

分けることで、比較ができる。

ただし、比較するためには、分けるための列が必要になる。

利用頻度 を聞いていなければ、利用頻度別には見られない。初回設定のわかりやすさ を聞いていなければ、オンボーディングとの関係は見られない。利用目的 を聞いていなければ、期待していた価値の違いは見られない。

聞いていないことは、比較できない。

この単純な事実が、アンケート設計ではもっとも重要である。

設問を増やすのではなく、比較軸を残す

ここで誤解しやすいことがある。

あとで比較したいからといって、設問をむやみに増やせばよいわけではない。

設問は、回答者の時間を使う。設問が増えれば、離脱も増える。回答の質も落ちる。調査票は倉庫ではない。何でも入れておく場所ではない。

入れるべきなのは、あとで判断を変える可能性のある比較軸である。

比較軸とは、回答を分けるための基準である。年代、職種、利用頻度、利用歴、利用目的、認知経路、契約状況、サポート接点。これらはそれ自体が知りたい情報というより、ほかの回答を読むための座標になる。

満足度を聞く。
それだけでは、全体の満足度しか見えない。

満足度と利用頻度を聞く。
すると、利用状態ごとの満足度が見える。

満足度と利用目的を聞く。
すると、期待している価値ごとの満足度が見える。

同じ満足度でも、比較軸が変われば、見える問題が変わる。

比較軸カードの使い方

調査票を作る前に、比較軸をカードとして並べる。

カードには、次の5つを書く。

項目書くこと
見たい仮説どんな違いがありそうか
入れる設問調査票に入れる質問
掛け合わせる項目満足度、継続意向、不満点など
差が出たら変えること施策や判断の候補
聞いていないと困ることその軸がない場合に見えなくなるもの

これは、網羅表ではない。

調査票に入れるべき設問を増やすための表でもない。

比較する意味があるかどうかを、事前に点検するための形式である。

比較軸カード1: 利用頻度

利用頻度は、サービスとの距離を示す軸である。

毎日使う人と月1回だけ使う人では、同じサービスを見ていても、見えているものが違う。

項目内容
見たい仮説利用頻度が低い人ほど、満足度や継続意向が低い
入れる設問このサービスをどのくらいの頻度で使っていますか
掛け合わせる項目満足度、継続意向、不満点、利用目的
差が出たら変えること低頻度ユーザー向けの導線、通知、オンボーディング
聞いていないと困ること不満の高い層が、よく使う人なのか、ほとんど使っていない人なのかがわからない

利用頻度を聞くと、満足度の低さを一枚岩として扱わずにすむ。

不満を持つヘビーユーザーと、不満を持つライトユーザーでは、必要な対応が違う。

比較軸カード2: 利用歴

利用歴は、慣れの軸である。

新規ユーザーは、最初の理解でつまずく。長期ユーザーは、変化のなさや運用上の不便に不満を持つことがある。

項目内容
見たい仮説新規ユーザーと長期ユーザーでは、不満点が違う
入れる設問このサービスを使い始めてどのくらいですか
掛け合わせる項目満足度、不満点、継続意向、初回体験
差が出たら変えること初期導線、ヘルプ、既存ユーザー向け改善、機能追加
聞いていないと困ること初回の問題なのか、長期利用後の問題なのかが分けられない

利用歴を聞かない調査では、初心者の困りごとと熟練者の困りごとが同じ場所に混ざる。

混ざったままでは、施策も混ざる。

比較軸カード3: 利用目的

利用目的は、期待の軸である。

同じ機能を使っていても、何を達成したいかによって評価は変わる。

項目内容
見たい仮説利用目的によって、満足している点や不満点が違う
入れる設問主にどのような目的でこのサービスを使っていますか
掛け合わせる項目満足度、重視する機能、不満点、継続意向
差が出たら変えること機能改善、訴求、導入事例、ヘルプコンテンツ
聞いていないと困ること何を期待していた人が満足していないのかがわからない

満足度は、期待との関係で決まる。

期待を聞いていなければ、満足も不満も宙に浮く。

比較軸カード4: 初回体験

初回体験は、入口の軸である。

サービスの価値が悪いのではなく、価値に到達する前の手続きで止まっていることがある。

項目内容
見たい仮説初回設定でつまずいた人ほど、満足度や継続意向が低い
入れる設問初回設定や開始手順はわかりやすかったですか
掛け合わせる項目満足度、継続意向、利用頻度、不満点
差が出たら変えることオンボーディング、チュートリアル、初回メール、ヘルプ導線
聞いていないと困ることサービス価値の問題なのか、入口の問題なのかを分けられない

初回体験を聞くと、不満の位置を少しだけ前後に動かせる。

問題は機能の中にあるのか。機能に到達する前にあるのか。

この区別は、改善の順序を変える。

比較軸カード5: 認知経路

認知経路は、期待形成の軸である。

広告から来た人、検索から来た人、口コミで来た人では、サービスに対する期待が違う。

項目内容
見たい仮説認知経路によって、期待値や購入意向が違う
入れる設問このサービスを最初にどこで知りましたか
掛け合わせる項目購入意向、満足度、利用目的、重視点
差が出たら変えること広告訴求、LP、検索コンテンツ、紹介施策
聞いていないと困ることどの入口の人が価値を感じているのかがわからない

認知経路は、単なるマーケティング項目ではない。

それは、ユーザーがどんな期待を持って調査票に現れたかを示す手がかりである。

比較軸カード6: 契約・購入状況

契約や購入の状態は、意思決定段階の軸である。

未購入、無料利用、有料利用、解約検討中では、同じ質問への答えの意味が変わる。

項目内容
見たい仮説顧客段階によって、評価や不安が違う
入れる設問現在の利用・契約状況を教えてください
掛け合わせる項目購入意向、継続意向、不満点、価格評価
差が出たら変えること料金設計、導入支援、アップセル、解約防止
聞いていないと困ること購入前の不安と利用後の不満を分けられない

購入前の人が不安を語るのと、利用中の人が不満を語るのは違う。

同じ否定的な回答でも、段階が違えば意味が違う。

比較軸カード7: サポート接点

サポート接点は、問題経験の軸である。

問い合わせをした人は、すでに何らかの困りごとを経験している。その人の満足度は、プロダクトだけでなく、サポート体験にも影響される。

項目内容
見たい仮説サポート接点がある人ほど、不満点や離脱意向が違う
入れる設問サポートや問い合わせを利用したことがありますか
掛け合わせる項目満足度、不満点、継続意向、解決状況
差が出たら変えることヘルプ、問い合わせ導線、サポート品質、FAQ
聞いていないと困ることプロダクトの不満とサポート体験の不満が混ざる

サポート接点を聞くと、不満の出どころを分けやすくなる。

プロダクトが悪いのか。問題は解決されたが時間がかかったのか。そもそも問い合わせる前にあきらめたのか。

次に聞くべき問いが変わる。

比較軸カード8: 離脱理由・未利用理由

離脱理由や未利用理由は、使われない理由の軸である。

使っている人だけを見ていると、使われなかった理由は見えない。

項目内容
見たい仮説使わない理由によって、必要な改善が違う
入れる設問利用しなかった理由、または利用をやめた理由は何ですか
掛け合わせる項目利用目的、認知経路、初回体験、価格評価
差が出たら変えること訴求、初回導線、価格、機能説明、ターゲット見直し
聞いていないと困ること不満なのか、不要なのか、理解されていないのかが分けられない

離脱理由は、自由回答だけに置いておくと扱いにくい。

選択肢で大きく分類し、必要なら自由回答で補う。分類できる形にしておけば、あとでほかの軸と比較できる。

すべての比較軸を入れてはいけない

ここまでカードを並べると、全部入れたくなる。

しかし、全部入れると調査票は重くなる。回答者は疲れる。回答の質は落ちる。分析する側も、どの表を見るべきかわからなくなる。

設問は、情報を集めるために増やすのではない。

あとで比較するために残す。

したがって、比較しない設問は、材料ではなく荷物になる。

調査票に入れる比較軸は、次の基準で選ぶ。

判断基準問い
意思決定に関係するか差が出たら、何を変えるのか
仮説があるかなぜその軸で違いが出ると思うのか
十分なサンプルが見込めるか分けたあと、各セルの人数は足りるか
回答者が答えられるかその設問は記憶や理解に無理がないか
ほかの設問で代替できないか似た軸を二重に聞いていないか

この表で残ったものだけを調査票に入れる。

削ることも、設計である。

調査票に入れる前の最終チェック

調査票を配信する前に、次の順序で見る。

1. 判断したいことは何か
2. 比較したい仮説は何か
3. その仮説に必要な比較軸は何か
4. 比較軸は設問として入っているか
5. 掛け合わせる相手の設問はあるか
6. 分けたあとに十分なサンプル数が残るか
7. 差が出たら何を変えるか
8. 差が出なかったら何を保留するか

この確認をしないままアンケートを配信すると、あとで困る。

満足度はある。
不満点もある。
自由回答もある。

しかし、分けるための軸がない。

そのとき、分析者は全体を眺めるしかなくなる。全体は便利だが、実務の判断には粗いことが多い。

クロス集計は、調査票の設計思想を映す

クロス集計は、あとから表を作る作業に見える。

しかし、実際には調査票の設計思想を映す。

何を比較したかったのか。どの違いを重要だと考えていたのか。どの仮説を残し、どの仮説を捨てたのか。

ローデータには、その判断が残る。

だから調査票を作るときには、設問文だけを見てはいけない。あとで作る表を想像する。表の行と列を想像する。そこに十分な人数が入り、差が出たときに行動を変えられるかを考える。

クロス集計のためのアンケート設計とは、比較の準備である。

聞いていないことは比較できない。
比較できないことは、判断に使いにくい。
判断に使えない調査は、記録として残っても、知識にはなりにくい。

調査票は、回答を集める装置であると同時に、未来の比較を保存する装置である。

この意識を持つだけで、アンケートは少し変わる。

設問を増やすのではない。
比較できる形で、必要な材料を残すのである。

実際のクロス集計表の作り方や、ローデータを使った分析例は、クロス集計とは?ローデータの実例でわかる作り方と分析の進め方で解説している。

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この記事で紹介したテンプレートを無料でダウンロードできます。

Excel

クロス集計表テンプレート

アンケート結果のクロス集計に使えるExcelテンプレート。集計関数・グラフ設定済み。

180KB
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この記事の著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。