VoC

VoC とは、問い合わせやレビュー、SNS、コールセンターへの相談などに表れる顧客の生の声を集めて、整理し、次の判断に活かす取り組みのことです。Voice of Customer の略で、製品開発の現場では、顧客の言葉をそのまま設計に届けるための起点として使われてきた。

VoC を具体例で理解する

あるアプリの担当者が、解約の増えた理由を探していたとする。

ダッシュボードの数字をいくら眺めても、なぜ離れていくのかは見えてこない。そこで、サポートへの問い合わせと、アプリストアのレビューを半年分集めて、ひとつずつ読み返してみる。

すると「ログインのたびに再認証を求められる」という不満が、表現を変えながら何度も出てくる。設問では拾えていなかった、当人たちの言葉だ。

繰り返し現れる声を拾い、何が起きているのかを掴む。これが VoC である。

VoC の仕組み

VoC で扱う声は、大きく二つに分かれる。

ひとつは、こちらから働きかけて集める声だ。インタビューやアンケートのように、こちらが場を用意して引き出す。能動的な VoC と呼ばれる。

もうひとつは、放っておいても自然に集まってくる声だ。レビュー、SNS の投稿、問い合わせの記録などがそれにあたる。受動的な VoC と呼ばれる。

ただ、集めただけでは、ばらばらの文章の山にしかならない。似た声をまとめ、論点ごとに整理して、ようやく分析できる材料になる。この整理は定性調査の分析と同じ考え方で、生の声を、扱える単位へとほどいていく作業だ。

VoC は何に効くのか

VoC が効くのは、実際に困っている顧客の言葉から始めたいときだ。

設問調査との違いは、声の出どころにある。アンケートは、こちらが用意した質問に沿って答えが返ってくる。一方、とくに受動的な VoC は、顧客が自分の言葉で、こちらの想定していない論点まで持ち込んでくる。問いを立てる前の、生の現実を見たいときに向いている。

順番をつけるなら、まず受動的な声で当たりをつける。レビューや問い合わせを読み込んで、論点そのものを探す。そのうえで、確かめたい仮説が見えてきたら、インタビューやアンケートで能動的に聞きに行く。受け取った声で気づき、聞きに行った声で深める、という流れだ。

VoC に映らない声

最大の注意は、声を上げる人に偏ることだ。

レビューや問い合わせに表れるのは、強い不満を持った人や、もともと発信に積極的な人の声であることが多い。満足して黙っている大多数(サイレントマジョリティ)は、ここにほとんど現れない。集まった声は、顧客全体を代表していない。

だから、件数を割合で語ると誤る。「問い合わせの 7 割がこの不満だった」と言っても、それは問い合わせをした人の中での 7 割でしかない。全顧客の 7 割ではない。代表性のある割合を知りたいなら、定量調査で改めて測り直す必要がある。

VoC が教えてくれるのは、何人がそう思っているかではない。どんな不満が存在しうるか、という発見だ。

VoC は、まだ言葉になっていない問題を連れてくる

数字は、起きたことの大きさを測れる。でも、なぜそれが起きたのかは、たいてい数字の外にある。

VoC を読むときに見るべきは、声の多さではない。

その一文の向こうで、顧客が何に詰まっていたのか。再認証を煩わしいと書いたその人は、本当は何をしようとして手が止まったのか。そこを想像できたとき、VoC は集計表ではなく、次に何を変えるべきかの手がかりに変わる。

だから問いたい。あなたがいま「多かった意見」として拾い上げているその声は、顧客が本当に困っていることの代弁になっているだろうか。それとも、声の大きな人の言葉を、ただ数え上げているだけだろうか。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。