KJ法
KJ法とは、調査や議論で出てきた情報を一枚ずつカードに書き出し、似たもの同士を集めてグループにまとめながら、全体の構造を組み上げていく整理・発想の手法です。文化人類学者の川喜田二郎が、フィールドワークで集めた雑多なデータをまとめるために考案し、著書『発想法』(1967 年)で広めた方法で、その名前の頭文字から KJ法と呼ばれている。
KJ法を具体例で理解する
10 人にインタビューをして、手元に大量の発言メモが残ったとする。
「価格が高い」「サポートの返信が遅い」「画面の文字が小さい」「他社から乗り換えにくい」。一つひとつはバラバラで、何を示しているのか見えてこない。
そこで、発言を一枚ずつカードに書き出し、近いと感じるものを 2、3 枚ずつ寄せていく。「返信が遅い」「問い合わせ窓口がわかりにくい」が一つの島になり、「価格が高い」「乗り換えにくい」が別の島になる。
島ができたら見出しをつけ、島と島の関係を矢印でつなぐ。すると、バラバラだった声が「サポート体制への不満」「導入のハードル」といった構造として立ち上がる。
これが KJ法である。
KJ法の仕組み
KJ法は、おおむね 4 つの段階で進む。
- ラベルづくり:情報を一つにつき一枚、短いカードに書き出す。
- グループ編成:似たカードを少数ずつ集めて島をつくり、見出しをつける。
- 図解化:島どうしの位置や関係を図にして配置する。
- 文章化:できあがった図をもとに、全体を文章で語り直す。
ここで大事なのは、最初に分類の枠を決めないことだ。カードを動かしながら、下から意味のまとまりが立ち上がってくる。あらかじめ用意した箱に放り込むのではなく、集めるうちに構造が見えてくる。このボトムアップの進め方が KJ法の核にある。
KJ法は何に効くのか
KJ法が効くのは、次のような場面である。
- インタビューや自由記述など、定性調査で集めた大量の断片を構造化したいとき
- 何が論点なのか、まだ枠組みが見えていないとき
- 数人のチームで、解釈をすり合わせながら全体像を描きたいとき
カードは数十枚から多くても 100 枚前後が扱いやすく、一人でもできるが、複数人で島をつくると視点が増える。
あらかじめ用意した分類軸に当てはめていくトップダウンのやり方とは、向きが逆だ。クロス集計のように決まった切り口で定量データを比べるのではなく、KJ法は枠を先に決めない。その順序が、答えの形が見えない調査で効いてくる。
KJ法でわからないこと
KJ法は、進める人のさばき方が結果に出やすい。
どのカードを同じ島に入れるかは、最終的に人の判断による。だから、結論を先に決めて、それに合う島割りをしてしまうと、もっともらしい図ができあがってしまう。データから構造を見つけたつもりで、自分の思い込みを並べ直しているだけ、ということが起こりうる。
カードが多すぎても破綻しやすい。数百枚を一度に扱うと、島がうまく立ち上がらず、力ずくのグルーピングに陥る。
そして KJ法でわかるのは定性的な構造であって、その島がどれだけ多くの人に当てはまるかという量ではない。割合や差を確かめたいなら、別の定量的な集計が必要になる。
KJ法とは、分類ではなく発見の作業である
整理と聞くと、決まった棚に物をしまう作業を思い浮かべる。けれど KJ法がしているのは、その逆だ。棚をつくる前に、まず物を手に取って眺める。
カードを動かす手が止まり、「この二つは、同じことを言っているのかもしれない」と気づく。その瞬間に、棚のほうが後から立ち上がってくる。
AI に発言録を渡せば、それらしいグループ分けはすぐ返ってくるだろう。けれど問われるのは、出てきた島を鵜呑みにするかどうかだ。本当にそこに線を引いていいのか。手を動かして自分でカードを寄せた人だけが、その問いを持てるのだと思う。
KJ法が最後に残すのは、整った分類表ではない。まだ名前のつかない構造が立ち上がる、あの瞬間だ。
次に目を凝らすのは、そこでいい。