行動観察

行動観察とは、人が「何と言うか」ではなく、「実際にどう動くか」を観て記録する定性調査の手法です。本人の語りではなく、行動そのものをデータにする。

行動観察を具体例で理解する

ある食品メーカーが、新しい時短調理キットの評判を確かめたいとする。

ユーザーに聞けば、みんな「便利だと思います」と答える。けれど、リピートが伸びない。

そこで、許可を得て数世帯の台所にカメラを置き、夕食づくりを観させてもらう。すると、キットは戸棚の奥にしまわれたままだった。一度は使ったものの、味付けが家族の好みと少しずれていて、結局いつもの作り方に戻っていたのだ。「自分で作った」という手応えも薄かったらしい。

「便利だと言ったのに、使っていない」。

この食い違いは、話を聞くだけでは決して出てこない。実際の行動を観て、はじめて見える。これが行動観察である。

行動観察の仕組み

仕組みはいたってシンプルだ。本人が語る自己申告(say)ではなく、実際にやっていること(do)を記録する。

店頭で客が棚の前で何秒立ち止まり、どの商品を手に取って戻すか。アプリのどこで指が止まるか。そうした観察できる事実を、メモや動画、行動の頻度として残していく。

観察者が現場に入り込み、対象者と関わりながら観る方法を参与観察、関わらず第三者として観る方法を非参与観察と呼ぶ。前者は文脈を深く理解でき、後者は対象者への影響を抑えやすい。

行動観察は何に使うのか

行動観察が効くのは、言葉で確かめにくい場面だ。

  • 本人も意識していない、無意識の手順やクセを知りたいとき
  • 「便利だ」と言うのに使われない、といった言行のズレ(say-do gap)が疑われるとき
  • そもそも言葉にしづらい、身体的・習慣的な行動を扱うとき

逆に、態度や満足度のような内面は観察だけでは測れない。リッカート尺度を使った定量調査定性調査と組み合わせ、「何をしたか」と「なぜそうしたか」を両側から押さえるのが実務の定石になる。

行動観察でわからないこと

最大の落とし穴は、人は見られると行動を変えることだ。観察されていると意識した瞬間、いつもより丁寧に、あるいは「正しく」振る舞ってしまう。これは観察者効果(反応性)と呼ばれる広い現象で、その代表例として知られているのがホーソン効果だ。観察で得た行動が、普段の姿とは限らない理由である。

もう一つ、観察できるのは「何をしたか」までで、「なぜそうしたか」は本人の頭の中にある。観察記録には、観る側の解釈もどうしても混じる。だからこそ、気になった行動は後でインタビューで本人に確かめる必要がある。

そして、数世帯・数人を観た結果は、そのまま全体の傾向とは言えない。少数の事例から市場全体を語ろうとした瞬間、行動観察は強みを失う。

行動観察は、言葉の裏側を見にいく

人は、自分の行動を正確には語れない。悪気なく、便利だと言い、使わない。覚えていないし、気づいてもいない。

だからアンケートの集計やデスクリサーチをいくら磨いても、語られなかった行動はそこに載らない。

行動観察が問うのは、いつもひとつだ。この人は、本当は何をしているのか。

何を作るか、何を変えるかを決める前に、一度その現場に立ち、言葉の裏側で実際に起きていることを自分の目で観る。発見はたいてい、答えた言葉の外側に落ちている。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。