アドホック調査
アドホック調査とは、その都度の特定の課題に答えるために、一度きりで設計・実施する調査のことです。アドホック(ad hoc)はラテン語で「この目的のために」を意味し、その名のとおり、いま向き合っている一つの問いに合わせて設計される。
「定点で追う調査じゃなくて、今回のための調査をやりたい」。発注側がそう口にするとき、ほぼアドホック調査を指している。けれど「一度きり」が何を諦めているのかは、最初は見えにくい。
たとえば、値下げをするか迷っているとき
ある商品の価格を下げるかどうかで、社内の意見が割れているとする。
「下げたら本当に買う人が増えるのか」「今の価格に納得していないのは誰なのか」。この一点を確かめるために、対象者を絞り、設問を組み、一回だけ調査を回す。結果が出たら、それをもとに判断して、調査はそこで終わる。
これがアドホック調査だ。問いがあり、それに答え、役目を終える。次の調査があるとすれば、それはまた別の問いのための、別の設計になる。
仕組みは「使い捨て」でいい
アドホック調査の中身は、特別な装置ではない。対象者の条件、設問、集計方法を、その課題のためだけに最適化して組む。継続して比べる前提がないぶん、今回いちばん知りたいことに合わせて、自由に設計を変えられる。
定量調査でも定性調査でも、一度きりの問いに答える形ならアドホックになりうる。手法の種類ではなく、「単発で答えを出して終える」という使い方の名前だと捉えるとよい。
アドホックとトラッキング、どちらを選ぶか
判断の分かれ目は、その問いが「今だけのもの」か「これから何度も見たいもの」かにある。
- 今回の意思決定のために、一回答えが出ればいい → アドホック調査。新商品のコンセプト評価、特定キャンペーン後の反応、撤退の是非など、その場で決めたいことに向く。
- 同じ指標を定期的に測り、推移を追いたい → トラッキング調査。ブランド認知や満足度のように、上がったか下がったかを継続して見たい指標に向く。
迷ったら、「来年の同じ時期に、同じ数字をもう一度見たいか」と自問するとよい。見たいなら、最初から同じ条件で測り続ける設計にしておくべきで、それは単発のアドホックでは満たせない。
アドホック調査でわからないこと
アドホック調査の最大の限界は、変化が読めないことだ。
一度きりの調査は、その時点の状態を切り取る。満足度が 60% だったとして、それが上がってきた 60% なのか、下がってきた 60% なのかは、その一回からは判断できない。比べる基準点がないからだ。
「先月の施策の効果はどうだったか」を後から知りたくなっても、施策前のアドホック調査を取っていなければ、比較相手が存在しない。アドホックは速くて柔軟だが、その柔軟さは、毎回設計が変わるぶん、過去の数字と並べられないという代償とセットになっている。
だから、いずれ推移を見たい指標があるなら、それだけは早い段階でトラッキングに回しておく。アドホックで足りるのは、答えが出たら役目を終えてよい問いに限られる。
アドホック調査とは、その一回で閉じる問いのことだ
調査を設計する前に、まず見分けたい。自分がいま持っているのは「今回限りの問い」なのか、「これから何度も向き合う問い」なのか。
答えが出た瞬間に役目を終えられる問いなら、アドホックにその一回ぶんの設計を集中させればいい。逆に、時間とともに動くものを追いたいなら、一回の鮮明な切り取りよりも、地味でも同じ物差しで測り続けるほうが効いてくる。
だから、設計に入る前に決めるべきことは一つだ。この問いは、答えが出たらそこで閉じるのか。閉じると言い切れたとき、はじめてアドホックはいちばん速い選択になる。