リサーチオプス

リサーチオプスとは、調査そのものではなく、調査を支える裏側の仕組み(人・プロセス・ナレッジ)を整えて、組織が繰り返し調査を回せるようにする考え方です。ResearchOps(research operations)の略で、一回ごとの調査の質ではなく、調査を続けられる土台づくりを受け持つ。

リサーチオプスを具体例で理解する

ある会社で、プロダクトの改善のために月に何度かユーザーへの調査をしているとする。

ところが、担当者は調査のたびに同じことで消耗していた。話を聞く相手を毎回ゼロから探し直し、謝礼の渡し方をそのつど考える。終わった結果は各担当者の PC に散らばり、半年前に誰かが同じことを調べていたことにも気づけない。

そこで、対象者を募る経路をあらかじめ用意し、謝礼や同意の手順をテンプレート化し、過去の結果を一か所に集めて検索できるようにした。すると担当者は、段取りではなく「何を聞くか」に時間を使えるようになる。

この、調査の中身ではなく調査の回し方を整える営みが、リサーチオプスである。

リサーチオプスの仕組み

個人の工夫は、その人が抜けると消える。仕組みにする狙いは、担当が代わっても同じ品質で回せること——属人性を解消した再現性にある。

人・プロセス・ナレッジ(知見)を土台に、参加者を集める運用、知見の蓄積、同意や倫理を扱うガバナンスといった裏方領域に広がる。ツールは、これらを支える道具の一つにすぎない。どこが要かは組織の規模や成熟度で変わるが、現場の痛点が大きいのは次の二つだ。

ひとつは、参加者まわりの運用だ。誰に聞くかを募り、条件で選び、謝礼を渡す。このリクルーティングを毎回手作業でやると重いので、パネルや募集の経路を仕組みとして持っておく。

もうひとつは、知見の蓄積だ。終わった調査の記録を個人ではなく組織に残し、後から探せる状態にする。これがないと、同じ調査が何度も繰り返される。

どう判断に使うか、どこで誤読されやすいか

リサーチオプスは、いきなり全部を整えるものではない。判断材料として持っておきたいのは、痛点の大きいところから小さく始める、という順番だ。毎回の参加者集めがつらいならそこから、過去の調査が見つからないことが多いならナレッジの一元化から手をつける。

一方で、誤読されやすい点が二つある。

ひとつは、ツールを入れること=リサーチオプスだと思うことだ。調査管理のサービスを契約しても、誰がどう使うかの取り決めがなければ、運用は変わらない。

もうひとつは、大企業だけのものだと思うことだ。効くかどうかは規模より頻度で決まる。年に数回しか調査しないチームが重い仕組みを敷けば、整える手間のほうが上回って過剰になるが、小さな組織でも調査を繰り返すなら、整える価値はある。

リサーチオプスでわからないこと

最も注意すべきなのは、仕組みを整えること自体が目的になってしまうことだ。

手順やテンプレートを磨くのは気持ちがいいし、組織や調査の進め方が変われば仕組みも作り直しになる。だからこそ終わりがない。だが本来の目的は、運用を完璧にすることではなく、良い判断につながる調査をしやすくすることだ。そこを見失うと、運用のための運用が始まる。

そして、土台が整っていることと、調査そのものが良いことは別の話だ。リサーチオプスは、誰に聞くかを決めてくれるわけでも、設問の良し悪しを保証してくれるわけでもない。回しやすくはするが、中身の質までは引き受けない。

リサーチオプスは、個人の段取りを組織の土台に変える

調査がうまくいくかどうかは、つい「何を聞いたか」で語られる。

ただ、その手前で消えていく時間がある。相手を探し、手順を思い出し、過去の記録をたどる時間だ。それは一人ひとりの工夫として処理され、その人が抜ければ消えてしまう。

そう考えると、リサーチオプスが整えているのは、次の調査の最初の一歩を軽くしておくことだと思う。

リサーチオプスとは、個人の頭の中にあった段取りを、組織が何度でも使える土台へと移し替える営みである。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。