ペルソナ

ペルソナとは、調査で得たデータをもとに、利用者の像を年齢・生活・価値観を持った一人の架空の人物として描き出し、チームで共有するための成果物です。

「20 代から 40 代の女性」では、誰も同じ人を思い浮かべられない。そこで実在の利用者を調べ、典型を一人に凝縮する。インタラクション設計の分野で Alan Cooper が 1999 年の著書で広めた、設計のための道具である。

ペルソナを具体例で理解する

スキンケアを売るネット直販(D2C)のサイトで、新規購入が伸びないとする。

「主要顧客は 30 代女性」とだけ決めても、サイトの言葉も写真も定まらない。そこで購入データと数人への聞き取りから、一人の人物を立てる。

「佐藤あや、34 歳。1 歳児を育てながら時短勤務。肌荒れは気になるが、店頭で選ぶ時間がない。深夜の授乳後にスマホで探し、成分表示と『無香料』を頼りに、レビューを数件読んでから買う」

ここまで具体化されると、判断が変わる。トップに何を載せ、どの不安を先に解くか。「30 代女性向け」では出なかった答えが、この一人を前にすると見えてくる。

これがペルソナである。

ペルソナの最小限の仕組み

ペルソナの核は、ばらばらの利用者を一人の像に凝縮することにある。

まずクラスタ分析で似た回答者をグループにまとめ、各グループの中心にいそうな典型を一人として描く。そこに行動観察で拾った「実際に何をして、何に詰まったか」を肉付けし、名前や顔を与えて、誰もが同じ人を指せるようにする。

何体つくるかは、実務では 3〜5 体が目安とされる。増やすほど現実に近づく気はするが、覚えていられなければ、結局どれも使われない。

データに基づくペルソナと、妄想のペルソナ

ここが、発注側でいちばん効いてくる分かれ道だ。調査の前に、思い込みで像を先に描くことがある。この思い込みで先に描いた簡易版(プロトペルソナ)は、チームの前提を見える形にするには役立つ。ただし出発点であって、実際の利用者で裏を取り、ずれていたら描き直す前提のものだ。たった一人を深く掘るN1分析から像を立ち上げ、他にも当てはまるかを別の手段で確かめていく進め方とも地続きである。

裏取りを飛ばすと、像はただの願望になる。「こうあってほしい客」に施策を当てて、外す。両者を分けるのは、属性の細かさではない。実在の利用者で確かめ、外れたら直したか、その一点である。

ペルソナでわからないこと(最も注意すべき限界)

最大の落とし穴は、ペルソナを実在の個人と取り違えることだ。

佐藤さんは利用者の典型を一人にまとめた架空の像であって、実在の誰かではない。だから「佐藤さんならこう言う」と決めても、それが利用者全体の何割に当てはまるのかは、ペルソナ自身からはわからない。属性を盛るほど描写は生々しくなるが、それを全部そなえた人は現実にはほとんどいなくなる。古くから指摘のある弱点だ(Chapman & Milham, 2006)。

もう一つは、年齢や性別といった属性で束ねる(デモグラフィック)ステレオタイプに滑り落ちることだ。「30 代・既婚・子持ちならこう考えるはず」という決めつけは、属性で人を束ねた紙人形を生む。ペルソナが運ぶべきは肩書きの一覧ではなく、その人がなぜそう動くのかというインサイトのほうだ。そして、貼って満足してしまうと、せっかくの一人は誰の判断も動かさない。

ペルソナとは、顔のない多数に一つの顔を与える賭けである

調査の数字は全体像をくれる。けれど「20 代女性の 58%」のままでは、チームの誰も、その人に向かって設計できない。

ペルソナは、その顔のない多数に、あえて一つの顔と名前を与える。みんなが同じ一人を思い浮かべ、「この人ならどうか」と問える。それがこの道具の力だ。

ただし、与えた顔は賭けでもある。似顔絵を本人と思い込んだ瞬間、そこに描かれなかった人たちが、静かに視界から消える。

ペルソナとは、利用者を一人の人物に仕立てて終わる作業ではない。

その一人を手がかりに、後ろにいる本物の利用者を見失わずにいられるか。そう問い続ける道具である。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。