標本誤差

標本誤差とは、母集団の全員ではなく一部だけを調べたために生じる、推計値の偶然のばらつきの幅を表す指標です。

標本誤差を具体例で理解する

調査会社から、こんな報告を受けたとする。

「対象者 400 人に聞いたところ、新サービスの支持率は 50% でした」

半分が支持。意思決定に使えそうな数字に見える。

ただ、この 400 人は、対象となる人たち全員ではない。たまたま選ばれた 400 人だ。もう一度別の 400 人に聞けば、48% になるかもしれないし、53% になるかもしれない。

この「選んだ人が違えば数字も少し動く」幅が、標本誤差である。

400 人・支持率 50% のとき、95% の信頼度でこの幅はおよそ ±5% になる。だから報告の本当の意味は、「支持率はだいたい 45% から 55% の間にありそうだ」ということだ。

標本誤差の仕組み

標本誤差を決める要素は、ほぼ二つしかない。

一つは、聞いた人数(サンプルサイズ)。人数が多いほど誤差は小さくなる。逆に言えば、人数が少ないほど数字は不安定になる。

もう一つは、聞いている比率そのもの。誤差幅は支持率が 50% に近いときに最も大きく、0% や 100% に近づくほど小さくなる。

ここで誤解されやすいのが、母集団の大きさだ。誤差幅は、対象が 1 万人でも 1,000 万人でも、ほとんど変わらない。効くのは「何人に聞いたか」であって、「全体が何人か」ではない。

標本誤差は何に使うのか

標本誤差は、たとえば次のような場面で使う。

  • 報告された数字を、点ではなく「だいたいこの範囲」として読むとき
  • 必要な回収数を、許せる誤差幅から逆算するとき
  • 二つの数字の差が、誤差の範囲内かどうかを確かめたいとき

最後の点はとくに大事だ。A 案 52%、B 案 48% という結果が出ても、誤差が ±5% なら、この 4% 差は偶然の範囲に収まる。差があるかどうかを言うには、有意差として判定する必要がある。誤差幅は推計するもの、有意かどうかは判定するもので、この二つは別の作業だ。

標本誤差が教えてくれないこと

ここが、いちばん誤解される。

標本誤差は、回収の偏りや設問の作り方による狂いを、いっさい含まない。

たとえば、回答してくれた人が特定の層に偏っていたとする。これは標本誤差ではなく、別の種類の誤りだ。誘導的な設問で支持率が水増しされていても、標本誤差は何も教えてくれない。

標本誤差が測っているのは、あくまで「偶然どの人が選ばれたか」によるばらつきだけ。±5% という幅が小さいからといって、その数字が正しいとは限らない。偏った 1 万人に聞けば、誤差幅は小さいまま、答えは大きく外れる。

標本誤差とは、謙虚さを数字にしたものである

私たちは、一部を見て全体を語る。調査とは、そもそもそういう営みだ。

その「一部から語っている」という事実を、こっそり消さずに、幅として明示する。それが標本誤差だと思う。

±5% という幅は、数字の弱さではない。どこまでなら言い切れて、どこからは言えないのか、その境界を引いてくれる線である。

だからこそ、報告書の小さな差に飛びつく前に、いちど問いたい。

その差は、誤差の幅を超えているだろうか。

±5% が物差しになるのは、それを「どこまでなら言えるか」の線として読むときだ。

数字を大きく見せる道具にしたとたん、同じ幅は、ただの飾りに変わる。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。