出現率

出現率とは、ある調査の条件に合う対象者が、母集団全体の中にどれくらいの割合で含まれているかを示す指標です。英語では incidence rate、現場では IR とも呼ばれる。

出現率を具体例で理解する

たとえば、ある化粧品ブランドの利用者だけに意見を聞きたいとする。

声をかけた 100 人のうち、そのブランドを使っているのが 8 人だったら、出現率は 8% だ。声をかけた人たちが母集団の縮図になっていれば、この 8% は、母集団の中の出現率の見積もりとしてそのまま使える。

数字としては小さい。でも、ここでつまずく人は多い。「100 人に配れば 100 人ぶんの声が集まる」と考えてしまうからだ。

実際に集まるのは、条件に合う 8 人ぶんだけである。残りの 92 人は、数問だけ答えたところで対象外と判定され、静かに去っていく。

出現率とは、その「実際に残る人の割合」のことだ。

出現率は何を測り、どこまで言えるか

出現率が測るのは、母集団の中で条件に該当する人がどれだけ「いる」かという、ただ一つの割合である。

この一つの数字が、調査の見積もりを大きく左右する。

たとえば必要な回答者が 200 人で、出現率が 8% だとする。すると、その 200 人にたどり着くまでに、ざっと 2,500 人へ声をかけて該当の有無を判定する計算になる。出現率が 40% に上がれば、必要な接触は 500 人で済む。

出現率が低いほど、必要な接触数は増える。接触が増えれば、費用も、期間も増える。

だからこの指標は、調査が成立するかどうか、いくらで、どれくらいの日数でできるのかを推計するための、最初のものさしになる。

どこで出現率は誤読されるか

出現率は、似た数字と取り違えられやすい。

ひとつは回収率との混同だ。回収率は、声をかけた人のうち実際に答えてくれた人の割合を測る。出現率は、声をかけた人のうち条件に該当する人の割合を測る。ここでは単純化して分母をどちらも「声をかけた人」にそろえているが(実務では、回収率は配信数、出現率はスクリーニングの回答者を分母にするなど、数え方は場面で変わる)、前者が「届いたか」、後者が「該当したか」を見ている、という違いは動かない。

もうひとつは、もっと費用に直結する誤読である。見積もり時に使う出現率は、過去のデータや経験から立てた「想定値」にすぎない。これを確定値のように扱うと危ない。想定 20% で組んだ計画が、ふたを開けて実測 5% だったら、必要な接触は 4 倍に増える。費用も期間も、その分だけ膨らむ。

想定した出現率だけでは足りないこと

では、その「想定値」が実際とどれだけずれているかは、計画の段階では分からない。だからこそ、本格的な本調査に入る前に、スクリーニング調査で出現率を実測する。少数のサンプルに条件を当ててみて、想定とのずれを先に確かめておくわけだ。

条件の書き方ひとつ、設問の作り方ひとつ、その時々の母集団の状態ひとつで、実際の値は動く。ここで実測した値は、必要なサンプルサイズの見直しにも、費用と期間の再計算にも、そのまま効いてくる。

出現率とは、見積もりの前提を疑うための数字

経験の浅いうちは、出現率を「ただの割合」として眺めてしまう。8% か、低いな、くらいで通り過ぎる。

でも、この数字は計画の土台そのものだ。土台が想定どおりかを、本番の前に一度たしかめる。それだけで、後から見積もりが大きくずれる事態の多くは防げる。

出現率とは、対象が母集団に占める割合を表す指標である。

そして同時に、その割合を信じきる前に、もう一度実測しておくべきだと教えてくれる、慎重さの目盛りでもある。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。