カスタマージャーニー

カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り、比べ、買い、使い続けるまでの一連の体験を、企業との接点ごとに時間軸に沿って描き出す考え方であり、それを一枚の図にまとめた成果物(ジャーニーマップ)でもあります。

カスタマージャーニーを具体例で理解する

ノイズキャンセリングのイヤホンを、ネットで買おうとしている人を思い浮かべてほしい。

電車の中で広告を見て名前を知り、夜にレビュー動画を何本か見比べ、他社製品と価格を並べ、口コミを読んでから注文する。届いた箱を開け、ペアリングでつまずき、サポートのページを探す。

この「知る → 比べる → 買う → 開ける → 困る」という一続きの流れを、本人の行動・気持ち・つまずきと、企業側の接点(広告、レビュー、商品ページ、開封、サポート)を並べて一枚に起こす。

これがカスタマージャーニーである。

カスタマージャーニーの最小限の仕組み

体験は、おおまかに購入前・購入・購入後の段階に分けて捉える(Lemon & Verhoef, 2016)。冒頭の例なら、認知と比較が購入前、注文が購入、開封とサポートが購入後にあたる。

各段階で顧客が触れる接点(タッチポイント)を並べていく。接点は自社が持つもの(広告・商品ページ)だけでなく、提携先のもの、顧客自身や他者によるもの(口コミ・SNS)まで含む。つまり、顧客が通る接点の多くは自社の管理下にない。

現状のジャーニーと理想のジャーニー

ジャーニーには二つの描き方がある。いま顧客が実際にたどっている「いまの道のり」と、こう動いてほしいという「理想の道のり」だ。改善したいなら、まずいまの道のりを正確に描き、現状と理想の差がどこにあるかを見る。最初から理想を描くと、現実を飛ばした願望図になる。

粒度も決めておきたい。「比較検討」と一語で括るか、「動画を見る/価格を並べる/口コミを読む」まで割るか。粗すぎれば打ち手が出ず、細かすぎれば全体が見えない。改善したい接点の前後だけ細かく割るのが現実的だ。

そして、調査・行動データから起こすジャーニーと、会議室で想像して描くジャーニーは別物である。後者は前提を共有するには役立つが、出発点にすぎない。行動観察で実際の動きを確かめ、VoCで生の声を拾い、N1分析で一人を深掘りして、ずれていたら描き直す。どのデータから道のりを起こしたかが、図の信頼性を決める。

カスタマージャーニー図が描き落とすもの

最大の落とし穴は、顧客が一直線には進まないことだ。顧客の判断は途中で何度も更新され、外部の事情も割り込むため、前の段階へと簡単に引き戻される。比較に戻り、買ってからまた調べ直す。こうした行きつ戻りつは、研究でも繰り返し指摘されてきた(Lemon & Verhoef, 2016)。矢印一本に均すと、その行き来が消える。

もう一つは、自社が見たい接点に偏ることだ。自社の接点はログが厚く描けるのに対し、他社サイトでの比較や開封後の体験はデータが乏しい。この「描けなさ」のかたよりが、そのまま図のかたよりになる。広告や商品ページは熱心に描けても、顧客が一番悩んだ沈黙は描き落とされ、図は顧客の体験ではなく自社の都合の地図になる。

そして、せっかく描いても使われずに眠れば、かけた労力は顧客の体験を何も変えない。

カスタマージャーニーとは、自社の外を歩く顧客に並走することである

私たちは、自社の接点だけを見ていれば顧客を見ていると錯覚しやすい。けれど顧客の時間の大半は、こちらの管理が届かない場所——他社のレビュー、友人の一言、開封後の戸惑い——で流れている。図に並ぶ接点は、その長い道のりのうち、たまたまこちらから見えた数点にすぎない。

あなたの手元のジャーニーは、顧客の一日のどれだけを描けているだろうか。そして描けていない時間に、顧客はどんな顔をしているだろう。

その問いを携えて図を見直すとき、カスタマージャーニーはようやく、自社の外を歩く顧客の隣に並ぶための視点になる。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。