ブランド認知

ブランド認知とは、ある商品やサービスのカテゴリの中で、そのブランドがどれだけ人々の記憶に残っているかを測る指標です。

ただ、ひとくちに「知っている」といっても、その中身はひとつではない。同じ「認知」でも、測っているものが違う。

「認知率」は三つある:純粋想起・助成想起・第一想起

転職サービスの担当者が、四半期のブランド調査の結果を開いている。「認知率 70%」とある。悪くない数字に見える。

ただ、その 70% は、サービス名の一覧を見せて「知っているものを選んでください」と聞いた助成想起だ。同じ調査で、何も見せずに「思い浮かぶサービスを挙げてください」と自由回答で聞いた純粋想起は 35%。回答の最初に挙がった第一想起は、12% まで落ちる。

一つのブランドなのに、測り方を変えるだけで 70%、35%、12% と数字が動く。悩ましいのは、もう一つの事実だ。助成想起では上位なのに、実際の申し込みでは競合に負けている。知られてはいる。でも、選ばれていない。

助成想起が高く出るのは、選ぶほうが思い出すより易しいから

助成想起が高く出るのは、構造の問題だ。リストという手がかりがあれば、人は「見たことがある」と再認できる。再認は記憶のいちばん浅い層で、手がかりなしにゼロから名前を再生する純粋想起より、ずっと易しい。だから助成は、純粋より必ず高く出る。助成だけを見れば、記憶の強さを過大評価してしまう。

再認から再生、そして真っ先に挙がる第一想起へ——この順に記憶は深くなる。David Aaker は 1991 年、これを「認知のピラミッド」として整理した。頂点の第一想起は、カテゴリを思い浮かべた瞬間にまず立ち上がるブランドを指す。

設計は「純粋を先に聞く」、分析は「聞き方を変えない」

設計でまず決めるのは、純粋想起で聞くか助成想起で聞くかだ。ここで順番を誤ると、数字が壊れる。助成のためにブランド名の一覧を先に見せると、あとで純粋想起を聞いても、たった今見た名前が引きずられて出てくる。このキャリーオーバー効果を避けるため、純粋想起は助成より前に置く。

分析で守るのは、聞き方を途中で変えないことだ。純粋想起で追ってきた数字を、ある回だけ助成想起に差し替えれば、跳ね上がった分は実態ではなく測り方の変化でしかない。同じ聞き方を固定してはじめて、時系列が意味を持つ。この一貫性はトラッキング調査の生命線でもある。

知られていても、選ばれるとは限らない

認知は、購買ファネルのいちばん入口にある。Lavidge と Steiner が 1961 年に示した段階モデルでも、認知は知識・好意・選好・確信・購買へと続く連なりの最初に置かれた。知られていなければ、選ばれようがない。認知は、選ばれるための必要条件だ。

ただし、十分条件ではない。認知率だけを追いかけると、知られていても選ばれないブランドを見落とす。

もっとも、その場で真っ先に思い出せること——第一想起の強さ——は、候補に残れるかどうかを左右する。Prakash Nedungadi が 1990 年に行った実験では、ブランドへの評価を変えなくても、思い出しやすさを操作するだけで、検討の候補に入り選ばれる確率が動いた。ただしこれは統制された実験での知見で、どんな商品・場面にもそのまま当てはまるとは限らない。認知の先の好意や推奨まで含めた全体像は、ブランドヘルスとして捉える。

認知率が動いたら、「どの想起が動いたか」に戻る

認知率が上がったのに、売上は動かない。よくある話だ。

まず開くのは、上がったのがどの認知か、だ。助成想起だけが伸びて純粋想起が横ばいなら、増えたのは「見せられれば思い出せる人」であって、「その場で真っ先に浮かぶ人」ではない。打つべきは、もっと広く知らせることより、思い出す場面と名前を結びつけることかもしれない。

認知は、一つの数字では握れない。どの想起が、どこまで動いたのか。そこまで見て、ようやく次の一手が選べる。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。