トラッキング調査

トラッキング調査とは、同じ設問・同じ対象・同じ手法を保ったまま調査を定期的に繰り返し、数値の変化を時系列で追う調査の進め方です。日本語では「定点観測」と呼ばれることも多い。

一度きりで答えを出すのではなく、毎回ものさしを変えずに当て続ける。その積み重ねから、上がったのか下がったのか、いつ動いたのかが見えてくる。

たとえば、ブランドの認知率を追う

ある飲料メーカーが、自社ブランドの認知率を知りたいとする。

1 回だけ調べて「認知率は 40% でした」と分かっても、その 40% が高いのか低いのかは判断できない。去年と比べて伸びているのか、しぼんでいるのかが分からないからだ。

そこで、毎月同じ設問を、同じような対象者に、同じ聞き方で投げ続ける。すると「3 月 38%、4 月 40%、5 月 45%」という線が引ける。テレビ CM を打った 5 月に数字が跳ねていれば、施策と変化を重ねて読める。ただし、重ねて読めることと、CM が原因だと言い切れることは、別の話だ(後述する)。1 回の調査が点だとすれば、トラッキング調査は点をつないだ線を引く作業に近い。

最小限の仕組み

トラッキング調査の中身は、1 回ごとに見れば普通のアンケート調査と変わらない。違うのは「同じものを繰り返す」という設計だけだ。

毎回の調査を「波(ウェーブ)」と呼ぶ。第 1 波、第 2 波と重ねていき、各波の数字を並べて推移を見る。ここで命になるのが、波と波のあいだで条件をそろえることだ。設問の文言、選択肢、対象者の集め方、聞く時期の間隔——これらを固定して初めて、波どうしの数字を同じものさしの上で比べられる。

毎回の対象者には、同じ人に聞き続けるパネル型と、毎回別の人に聞く型がある。世の中全体の傾向を追うなら、毎回新しい対象者で割合を比べる形が多い。

トラッキングか、アドホックか

調査には、その都度きりで終える進め方もある。新商品の名前を 2 案で比べたい、ある不満の理由を一度だけ深く知りたい——こうした特定の問いにその場で答えるのがアドホック調査だ。設問も対象も手法も、その問いに合わせて毎回作り変えてよい。

選び分けの軸はひとつ、変化を追いたいかどうかにある。

  • 認知率・満足度・利用率など、同じ指標の上下を継続して見張りたい → トラッキング
  • いま立っている特定の問いに、一度きりで答えを出したい → アドホック

そして、どこを固定するかが設計の肝になる。比べたい指標そのものの設問、対象者の条件、データの集め方。この三つは、よほどの理由がない限り波をまたいで変えない。逆に、毎回の補足質問のように時系列で比べない部分は、その時々の関心に応じて差し替えてよい。

変化は見えても、原因まではわからない

7 月に数字が下がったとして、それが競合の広告のせいか、季節のせいか、自社が出稿を絞ったせいかは、線そのものからは判定できない。トラッキング調査が教えてくれるのは「いつ、どちらへ動いたか」までで、原因は別の調査や分析で確かめるしかない。

設問を変えると、過去とつながらなくなる

トラッキング調査でいちばん怖いのは、途中で条件を変えてしまうことだ。

設問の言い回しを少し直しただけでも、数字は動く。対象者の集め方を変えても、手法をネット調査から電話に切り替えても動く。すると、その変化が世の中の実態が動いた結果なのか、調査のやり方を変えたせいなのかが、区別できなくなる。これまで積み上げてきた時系列が、その一点で断ち切られてしまう。

だから、より良い設問を思いついても、安易に差し替えない。どうしても変えるなら、新旧の設問を同じ波で両方聞いて差を測り、過去とのつなぎ目を残しておく。トラッキング調査の価値は、一回の精度ではなく、変えずに続けたという一貫性そのものから生まれる。

トラッキング調査は、続けることが答えになる

単発のアンケートは、その瞬間の写真を撮る。トラッキング調査が撮るのは、同じ構図で撮り続けた連続写真だ。

一枚一枚の鮮やかさより、構図を変えずに撮り続けることのほうが効いてくる。途中でカメラを買い替えれば、前の写真とは並べられない。

トラッキング調査とは、毎回ものさしを我慢して固定する調査である。その我慢が、変化という最も見たいものを映し出す。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。