サンプル数

サンプル数とは、標本を何回・いくつ抽出したかを指す概念で、1 つの標本に含まれる回答者の数を指すサンプルサイズとは別ものです。

サンプル数を具体例で理解する

ある調査で、3 つの店舗それぞれで別々に 100 人ずつ聞いたとする。

このとき、独立して取った標本は 3 つある。これが「サンプル数 3」である。

一方、それぞれの標本に 100 人ずつ回答者がいるなら、各標本の大きさは 100 人。これは「サンプルサイズ」のほうだ。

ところが実務では、調査会社に「サンプル数はどれくらい必要ですか」と聞いたつもりが、返ってきた答えは「最低 300 は欲しい」だった、という場面が起こる。聞いた側は標本の個数を、答えた側は回答者の数を思い浮かべている。同じ言葉で、別のものを話している。

サンプル数の仕組み

統計の世界では、もともとサンプル数は「標本を何回・いくつ取ったか」を指す。先ほどの例なら、店舗ごとに独立して標本を取ったので 3 になる。

これに対して、ひとつの標本の中に回答者が何人いるかは、別の量として扱う。教科書では小文字の n で書かれることが多い、こちらがサンプルサイズだ。

要するに、両者はそもそも違う階層のものを数えている。標本そのものの数と、その中身の規模。比べている土俵からして別なのだ。

なお、先ほどの 3 店舗・各 100 人を合わせた 300 人も、店舗ごとに別々に取れば「サンプル数 3」だが、一つの調査でまとめて集めてから年代別に分けたのなら、本来は「サンプル数 1・サンプルサイズ 300」と数えるのが筋だ。分けた群の数を 3 と呼ぶ流儀もあるので、群分けの話とは切り離して考えたほうが混乱が少ない。

サンプル数が指すもの

本来の意味でのサンプル数は、たとえばこういう場面に関わる。

  • いくつの標本を別々に取るのか(店舗別、地域別、時期別)
  • 何回に分けて標本を取るのか(毎日 1 回ずつ、何日間か)
  • 多段抽出で、いくつのまとまりから抜き出すのか

これらはいずれも「個数」の話であり、ひとつの標本の中の規模とは別に決まる。

サンプル数でつまずくところ

この言葉のいちばんの落とし穴は、サンプルサイズとの混同である。

本来は標本の個数を指すはずのこの言葉が、日本の実務では「回答者の数」の意味で使われることがとても多い。「サンプル数 1,000 の調査」と書かれていれば、たいていは 1,000 人に聞いた、つまりサンプルサイズ 1,000 のことを言っている。

このねじれが厄介なのは、言葉の指す対象が話す人によってずれる点だ。書き手は回答者数のつもりでも、統計に忠実な読み手は標本の個数と受け取る。どちらが正しいかという話ではなく、同じ文字列が二つの意味を持って流通している。

だから、最も大事な限界はこうなる。サンプル数という言葉そのものからは、それが標本の個数なのか回答者数なのかを確定できない。発注書やレポートでこの語に出会ったら、数字の意味を必ず一度確認したほうがいい。「この 1,000 は、標本の数ですか、人数ですか」と。たった一言で、後の集計や解釈の取り違えを防げる。

サンプル数とは、確認すべき言葉である

言葉は、意味が一つに定まっているとき初めて、安心して使える。

サンプル数は、その条件を満たしていない。本来の「標本の個数」と、現場で広まった「回答者数」が、同じ顔をして並んでいる。

数字だけが独り歩きするほど、この言葉のねじれは見えにくくなる。だからこそ、「この数は何の数か」と一度立ち止まる癖が効いてくる。

だから最後に、ひとつだけ問いを置いておきたい。

手元にある「サンプル数◯◯」は、いったい何を数えた数なのだろう。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。