主成分分析
主成分分析とは、多数の変数が持つ情報を、なるべく損なわずに、互いに重なりの少ない少数の合成変数(主成分)へ要約する統計的な分析手法です。
主成分分析は、たくさんの変数を同時に扱う多変量解析のひとつで、「次元圧縮」とも呼ばれる。項目が多すぎて全体像が見えないデータを、少ない軸に置き換えて見通しをよくする道具だ。
多すぎる評価項目を、少数の合成軸に要約する
あるお茶ブランドの調査で、回答者に「高級感がある」「若々しい」「毎日飲みたい」「信頼できる」といった 12 の印象項目を、それぞれ 5 段階で評価してもらったとする。
12 項目の数字をそのまま眺めても、ブランドの姿はつかめない。似た動きをする項目も多く、「高級感がある」と「値段が高そう」は、たいてい一緒に上下する。
そこで主成分分析にかけると、12 項目が 2〜3 本の合成軸に要約される。たとえば最初の軸は「高級 ↔ 日常」、次の軸は「若々しい ↔ 落ち着いた」のように、複数の項目をまとめた方向として現れる。この軸にブランドを並べれば、ばらばらだった 12 項目を少数の軸で見比べられる。
主成分は、ばらつきが最大になる向きに引いた合成軸
主成分は、元の項目を重み付きで足し合わせた合成変数である。ただ足すのではなく、回答者ごとの違い(ばらつき=分散)が最も大きく出る向きに、最初の軸を取る。
Hotelling が 1933 年に定式化したこの考え方では、まず分散を最も多く説明する向きを第 1 主成分とし、それと重ならない(無相関な)範囲で、次に分散が大きい向きを第 2 主成分とする。こうして、少ない軸で元のばらつきの多くを拾えるよう順番に軸を作る。
要約したいなら主成分分析、背後の要因を知りたいなら因子分析
主成分分析と因子分析は、よく似た表が出るため混同されやすい。だが目的が違う。
主成分分析は、観測した項目の情報を、効率よく少数の軸にまとめる(要約する)。因子分析は逆に、観測した項目の背後にあって直接は測れない共通の要因(潜在因子)を推定する。
Jolliffe と Cadima も 2016 年の総説で、両者を混同されやすい別の手法として整理している。「たくさんの項目をとにかく少数の軸に縮めたい」なら主成分分析、「回答の背後にどんな見えない軸が働いているのかを説明したい」なら因子分析。要約が目的か、潜在構造の説明が目的か。選ぶ基準はそこにある。
軸を何本残すかは、寄与率で決める
主成分は、元の項目と同じ数だけ作れる。12 項目なら 12 本だ。だが全部使っては要約にならないので、上位の何本かだけを残す。
その判断に使うのが寄与率である。寄与率は、その主成分が全体のばらつきのうち何割を説明しているかを表す。上から順に足した累積寄与率を見て、「ここまでで十分に説明できた」と言える本数で打ち切る。寄与率が急に小さくなる手前を目安にすることも多い。
何本残すかに、唯一の正解はない。少なく残せば見通しはいいが捨てる情報が増え、多く残せば情報は保てるが要約の意味が薄れる。
主成分の名前は、データではなく分析者がつける
ここが主成分分析の一番の落とし穴である。
分析結果に出てくるのは、どの項目をどれだけ重く足し合わせるか、という数字の合成軸までだ。その軸に「これは高級感の軸だ」と名前をつけ、意味を読み取っているのは、計算ではなく分析者である。
合成軸の解釈には、読みすぎの注意がいる。重みの大きい項目をいくつか拾って都合よく名づければ、それらしい物語はいくらでも作れてしまう。主成分は分散が最大になるよう機械的に引かれた軸であって、はじめから意味を持って並んでいるわけではない。
要約とは、何を捨てるかを選ぶこと
主成分分析は、たくさんの項目を少ない軸に要約してくれる。ただ、要約とは、残すものを選ぶと同時に、残りを捨てることでもある。
2 本の軸にまとめた図がきれいに見えても、そこには元の情報の一部しか映っていない。どれだけ捨てたかは、寄与率という数字が教えてくれる。
だから、軸を読む前に一度だけ確かめたい。この合成軸は、元の項目のどれだけを残せているのか。そしてその軸につけた名前は、データが語っていることなのか、私が語らせたことなのか。