NPS
NPSとは、「この商品や会社を友人や同僚にどのくらい勧めたいか」を 0〜10 で尋ね、強く勧めたい人の割合から勧めたくない人の割合を引いて、顧客のロイヤルティを 1 つの数字で表す指標です。Net Promoter Score の略で、Reichheld が 2003 年に提唱した。
NPS を具体例で理解する
サービスのアンケートに、最後の 1 問を足すとする。
「このサービスを、友人や同僚にどのくらい勧めたいですか。0 が『まったく勧めない』、10 が『ぜひ勧める』です」
回答が集まった。9 か 10 をつけた人が 40%、0 から 6 をつけた人が 25% いた。残りの 7・8 は、いったん脇に置く。
NPS は、40 から 25 を引いた +15 になる。
満足度なら「72% が満足」と出る場面で、NPS は「推す人が、引き止める人より 15 ポイント多い」と言い換える。点数ではなく、味方と反対派の差を 1 本の数字にしたものだ。
NPS の仕組み
回答者を、点数で 3 つに切り分けるのが骨格になる。
- 推奨者(Promoters):9〜10。熱心に勧めてくれる層。
- 中立者(Passives):7〜8。悪くないが、よそへ移りうる層。
- 批判者(Detractors):0〜6。不満を周りに漏らしうる層。
そして NPS = 推奨者の% − 批判者の%。中立者は計算から外れる。だから値は −100 から +100 までの幅を取り、満足の「平均点」とは別物になる。0〜10 の目盛りで程度を聞く発想はリッカート尺度と地続きで、上位だけを束ねて率にするやり方はトップ2ボックスと兄弟関係にある。
NPS は何を測り、どこまで言えるか
NPS が測っているのは、満足そのものではなく「人に勧めたい」という推奨の意向だ。Reichheld は、これを成長やロイヤルティの代理指標として提案した。だから使いどころは、絶対水準の評価よりも、同じ設問で測り続けて推移を追うこと、そしてブランドヘルスの一指標として他の数字と並べて読むことにある。
ただし、言えることはそこまでだ。NPS が高いことは「推す人が相対的に多い」状態を示すが、それが売上の伸びを約束するわけではない。指標と業績の間には、価格も競合も景気も挟まる。
NPS が約束してくれないこと
最大の落とし穴は、「ひとつの数字」への過信である。
Reichheld は NPS を成長の最も信頼できる予測指標だと主張したが、Keiningham らが 2007 年に Journal of Marketing で行った検証は、その主張を支持しなかった。複数業種のデータで調べると、NPS の予測力は顧客満足度と同程度で、満足度より明らかに優れているとは言えなかった、という結果だ。NPS が役に立たないという話ではない。「これさえ見れば成長がわかる単一の数字」だという触れ込みが、実証では裏づかなかった、ということである。
仕組みの側にも理由がある。0〜10 の 11 段階を推奨・中立・批判の 3 つに潰すと、情報は確実に落ちる。同じ +15 でも、9・10 がぎっしりの +15 と、批判者が少ないだけの +15 では中身がまるで違う。値だけ見ても、その内訳は復元できない。
尺度の使い方には文化差もある。中央を選びやすい回答者と、両端を選びやすい回答者では、同じ気持ちでも点数が変わりうる。海外の基準値と自社の値を、そのまま勝ち負けで並べることはできない。
NPS は、味方と反対派の「差」を測る一つの窓である
NPS の便利さは、複雑な評価を 1 本の数字に畳んでくれることだ。けれど畳んだものは、いつか開いて確かめないといけない。
その +15 は、熱心な推奨者が支える +15 なのか、それとも反対派が少ないだけの +15 なのか。下がったとき、推奨者が減ったのか、批判者が増えたのか。数字そのものより、その内訳と推移にこそ、次の打ち手のヒントがある。
だから私は、その値を答えそのものではなく、確かめの起点だと思っている。
味方と反対派の差を手早く映す窓であり、その向こうを見にいくための入口である。