中央値
中央値とは、データを小さい順(または大きい順)に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する値のことで、集団の「典型的な一人」を表す代表値です。
中央値を具体例で理解する
ある会社の社員 9 人の年収を調べたとする。
多くは 400 万円前後だが、一人だけ役員がいて、その人の年収は 5,000 万円だった。
このとき「平均年収」を出すと、900 万円を超えてしまう。けれど、900 万円もらっている人は、この職場に一人もいない。たった一人の高い値が、全体の平均を引っ張り上げてしまうからだ。
そこで、9 人の年収を順に並べて真ん中の値を見ると、420 万円。こちらのほうが、ほとんどの社員の実感に近い。
これが中央値である。「普通の人はいくらか」を知りたいとき、平均よりも実感に合うことが多い。
中央値の出し方
中央値の求め方は、ひとつだけ。
データを小さい順に並べ、真ん中にくる値を取る。データの個数が奇数なら、ちょうど中央の 1 つがそのまま中央値になる。偶数のときは、真ん中の 2 つの値を足して 2 で割った平均を中央値とする。
計算らしい計算は、ここにはない。順番に並べて、真ん中を指させばいい。
何を測り、どこまで言えるか
中央値の強みは、外れ値に強いことだ。さきほどの 5,000 万円のように、極端な値が一つ混ざっても、真ん中の順位は動きにくい。だから、年収・価格・滞在時間のように、一部の大きな値が分布を歪めやすいデータでは、中央値のほうが「典型」をうまく捉える。
一方で、中央値は分布の形やばらつきまでは教えてくれない。真ん中の一点しか見ていないため、両端がどう広がっているか、回答が割れているのかまとまっているのかは、この数字からは読み取れない。中央値は、情報を一つの値に絞り込むことで安定を得ている、とも言える。
使うときに覚えておきたいのは、平均値との関係だ。平均と中央値が大きくずれていたら、それはたいてい、分布が左右どちらかに歪んでいる合図になる。平均が中央値より高ければ、上に長い裾を持つ(高い値に引っ張られている)分布だろう、と見当をつける目安になる。ただしこれはあくまで経験則で、回答が飛び飛びの値しか取らないときなど、向きが逆になる例外もある。だからこの二つは、どちらか一方ではなく、並べて見るのがいい。
ただし、データが少ないときは中央値も安定しにくい。数人分の回答で真ん中が一つ二つ入れ替われば、値はあっさり動く。少数のデータでは、どの代表値も慎重に扱う必要がある。
中央値だけでは、分布は語れない
中央値は便利だが、これ一つで分布を語れるわけではない。
真ん中の値が同じでも、全員が真ん中付近に集まっている集団と、上と下にくっきり割れている集団とでは、意味がまるで違う。代表値は分布を一点に圧縮した要約であって、分布そのものではない。
だから、中央値を見たら、次は分布の広がりを確かめたくなる。回答を年代や利用頻度で分けて差を見るクロス集計や、値のばらつきを測る指標と組み合わせて、はじめて「この数字は誰の、どんな真ん中なのか」が見えてくる。
中央値とは、外れ値に消されない「普通」を探す道具
平均は、全員の値を一つに溶かし込む。その過程で、極端な誰かの存在が、典型からかけ離れた数字を作ってしまうことがある。
中央値は、そこに別の問いを立てる。
全部を足して割るのではなく、ただ真ん中に立っている人を探す。だから、声の大きい外れ値に物語を奪われない。
瞬時に両方を計算できる道具がそろっても、問われるのは計算ではない。平均と中央値、どちらが自分たちの知りたい「普通」に近いのか——それを選ぶのは、いつも人の側だ。
あなたのデータの真ん中には、外れ値に消されかけた誰の「普通」が、立っているだろうか。