マトリクス設問
マトリクス設問とは、評価したい複数の項目を縦(行)に並べ、同じ選択肢・尺度を横(列)に置いて、一つの表でまとめて答えてもらう回答形式です。
マトリクス設問を具体例で理解する
あるサービスの満足度調査を作るとする。
聞きたい項目が、いくつもある。使いやすさ、価格、サポート、デザイン、表示の速さ。これを一問ずつ「使いやすさに満足しましたか」「価格に満足しましたか」と並べると、画面が延々と続く。
そこで、表にまとめる。
左側にその 5 つの項目を縦に並べ、上に「とても満足・やや満足・どちらともいえない・やや不満・とても不満」を横に置く。回答者は、各行について当てはまる列を一つずつ選んでいく。
これがマトリクス設問だ。同じものさしを使い回せる項目を、格子の中に畳み込む。画面も、回答時間も、節約できる。
マトリクス設問の仕組み
骨格は単純で、行(item)が「測りたい項目」、列(共通の尺度)が「答え方」になる。多くの場合、列にはリッカート尺度のような順序のある選択肢が入る。
成立の条件はひとつ。並べる項目が、同じものさしで測れることだ。満足度を測る行の中に、利用頻度を尋ねる行を混ぜれば、選択肢が噛み合わなくなる。逆に言えば、共通の尺度を共有できる項目だからこそ、表に束ねる意味がある。
集計のときは、行ごとに一つの設問として扱う。「使いやすさの満足度」「価格の満足度」を、それぞれ独立した結果として読む。表に同居していても、行が違えば別の問いだ。
どこまで束ねるか、何で束ねないか
マトリクスを使うと決めたら、次に効いてくるのは行の数と並べ方だ。ここは見た目の都合ではなく、回答者の心理を見越して決める。
人は、同じ形式の質問が縦に積み重なると、一つずつ吟味する気力を失いやすい。最適な答えを探す労力を惜しみ、「とりあえず通る答え」で済ませる満足化(サティスファイシング、Krosnick)が起きる。その極端な形が、全行に同じ列を付けるストレートライナー、いわゆる直線回答だ。同じ尺度が並ぶ格子は「どれも同じ質問だ」という合図になり、行を区別しない傾向を生みやすいと報告されている(JSSAM, 2018)。
だから、設計でいくつか決めておく。
- 行を絞る。多すぎる項目は、疲労と直線回答を呼ぶ。
- 行の順番をランダムに入れ替え、並びの効果を散らす。
- 本当に大事な項目は、マトリクスから出して単独の設問にする。
格子に詰めるほど効率的に見えるが、束ねた瞬間に回答の質が落ちることがある。何を一括で聞き、何を一問として立てるか。その線引きが、設計の本体だ。
マトリクス設問でわからないこと
最大の限界は、表に並んだことそのものが、回答を歪めうることにある。
同じ列が選ばれていても、それが本心からの一致なのか、流し読みの末の直線回答なのかは、表からは決められない。実際、項目を一問ずつの形式に分けると、回答の非分化(全部同じに答える傾向)や無回答が減ったという報告がある(Couper ほか, 2013)。つまり、格子という器が、揃った数字を作り出している面がある。
スマートフォンの小さな画面では、横の列と縦の行を二次元で目で追う負担が増し、この傾向はさらに出やすい。きれいに揃った満足度の表を見たとき、それが評価の一致なのか、表の作りが生んだ影なのかを、一度疑っておきたい。
マトリクス設問とは、ものさしを使い回す約束
一問ずつ聞けば、回答者は項目ごとに立ち止まる。マトリクスは、その手間を畳んで、同じものさしを何度も使い回す。効率は、たしかに上がる。
でも、効率と引き換えに失うものがある。
その「全部やや満足」は、誰の、どんな満足なのだろう。
設計で問うべきは、「何項目まで入れていいか」ではない。この調査で、どの項目を本気で測りたいのか。それを先に決めれば、表に残す行と、表から出す行が、自然と分かれていく。
詰め込める項目の数を数えるより先に、決めておくことがある。この調査で、同じものさしで測ってよいのはどの項目か、だ。
そこを選び切れれば、表に束ねる行と、一つの問いとして立て直す行は、おのずと分かれていく。