インサイト

インサイトとは、集計結果やデータの要約ではなく、人の行動の奥にある「なぜ」を説明し、次の打ち手につながる、まだ自明でない解釈のことです。

報告を受け取ると、差し出された一文をそのまま結論にしてしまう。でも、それが事実の言い換えなのか、行動を変える発見なのかは、見分けないと危ない。

インサイトを具体例で理解する

ある食品ブランドが、健康志向の層に低カロリーの新商品を準備していたとする。アンケートでは、その層の多くが「カロリーを気にしている」と答えていた。ところが購買データでは、同じ人たちが週末にはむしろ高カロリーの濃厚なスイーツを選んでいる。見過ごされやすい差だ。

そこで何人かに、その一個を選んだ瞬間を聞く。返ってきたのは、「平日ずっと我慢しているから、これくらいは自分へのご褒美」。高カロリーを選ぶのは矛盾ではなく、我慢の反動を許す「ご褒美」——という見立てが立つ。

「カロリーを気にする人が 60% いる」は、事実である。「我慢した自分にご褒美を与えたい瞬間がある」は、インサイトである。この一行で打ち手が変わる。カロリーを下げるより、「がんばった日のごほうび」として置くほうが届くかもしれない。

インサイトの最小限の仕組み

人は、自分の行動の理由を必ずしも言葉にできない。消費者行動の研究では、購買の判断には本人も言葉にしにくい部分が働く、とされる。だからアンケートで返る「健康を気にしている」は、本当の動機の表層でしかない。インサイトは、その事実ではなく、下にある動機の解釈として立ち上がる。

ただし、深く降りればインサイトになるわけではない。解釈が価値を持つのは、受け手の「次に何をするか」につながり、行動を導く地図として働くときだ。一段『なぜ』を掘れているか、打ち手につながるか、チームにまだ共有されていない(自明でない)ものか。この三つに Yes と言えて、はじめてインサイトと呼べる。

インサイトをどう判断に使うか

まず疑うべきは、事実がインサイトに化けていないか、である。「20 代の満足度が低い」「解約は 3 か月目に集中している」。重要な発見だが、まだ事実の要約だ。見分け方は、ひとつ問いを足すだけでいい。「で、何を変えるのか」。具体的な打ち手が返るならインサイトに近く、返らないなら、まだ事実だ。きれいでも、行動につながらなければ価値は薄い。

この語は、二つの場面で違う顔を持つ。設計の段では、回答者が口にした言葉の奥に何があるかを掘りに行く姿勢になる。デプスインタビューで「なぜ」を重ね、ラダリングで理由を一段ずつたどるのは、そのためだ。分析の段では逆向きに働き、手元の解釈が本当に深い理解なのか、「深い」を装った思い込みかを疑う物差しになる。

インサイトを信じすぎない

インサイトの最大の弱点は、それが検証されていない解釈だという点にある。

「我慢へのご褒美」という読みが本当にその層に広く当てはまるのかは、その一言からはわからない。都合のよい解釈ほど人は信じたくなり、合う声だけを拾い、合わない声を「例外」として流す。これは仮説を扱うときと同じ落とし穴で、確証バイアスと呼ばれる。さらに「深い」の基準も人によって違う。同じ発見が、ある人には鋭く別の人には当たり前に見え、粒度がそろわず議論はかみ合わない。

だからインサイトは、結論ではなく出発点として扱うのが安全だ。鮮やかな一行は正解として配らず、「本当にそうか」を確かめる調査へつなぐ。その順番が、物語に飲まれない歯止めになる。

インサイトとは、まだ正解だと決めつけてはいけない発見である

「いいインサイトが出た」と言うとき、私たちはどこか、宝物を掘り当てた気になっている。

でも、本当に効くインサイトは、トロフィーではない。まだ間違っているかもしれない解釈であり、誰かの行動を一つ変えてみて、はじめて確かめられる仮の答えだ。鋭く言い当てた一行に酔うのではなく、「で、何を変えるのか」を同時に持てたとき、その発見はやっと判断の道具になる。

だから、鋭い一行は正解として配らず、まず問う。次に何を変え、どこを見れば確かめられるか。その一問があって、インサイトは検証の入り口に変わる。

このページの著者 こんぺい

大手事業会社で商品企画に携わり、スタートアップではプロダクトマネージャーとして会社を立ち上げ、調査会社では立ち上げからリサーチオペレーションを築いてきました。事業をつくる現場でいつも大事だと感じるのは、作り手と使い手の想いが重なる部分をどう大きくするか、そして、いいものを届け続けるお金のめぐりをどうつくるか。その重なりを広げる力が、リサーチにはある。そう信じて、このメディアをつくっています。