従業員満足度(ES)
従業員満足度(ES)とは、従業員が仕事や職場の処遇・人間関係・労働環境にどれだけ満足しているかを測る指標です。英語の employee satisfaction の頭文字をとって ES と呼ばれます。
ある会社で、人事が満足度調査の結果を役員に見せる。「総合満足度は 5 段階で 4.1、去年より 0.2 上がりました」。会議室の空気はゆるむ。職場は良くなっている、と。
ただ、その三か月後に、エースの若手が辞表を出す。
満足度は高かったはずなのに、なぜ辞めるのか。
ここに、この指標の性格が出ている。満足とは、不満がない状態のことだ。給料、人間関係、設備に大きな不満がなければ、人は「やや満足」を選ぶ。でもそれは、この会社のために前のめりで頑張りたい、という気持ちとは別のものだ。居心地のよさと、貢献したい熱量は、同じではない。
何を測っているのか
ES の学術的な土台は、職務満足(job satisfaction)という古い概念にある。Locke は 1976 年に、これを「自分の仕事や仕事経験の評価から生まれる、快い感情の状態」と定義した。つまり ES が測るのは、業績でも忠誠心でもなく、本人が感じている満足という感情である。
測り方は素朴だ。処遇、仕事内容、上司、職場環境といった側面ごとに「どのくらい満足しているか」をリッカート尺度で 5 段階や 7 段階で聞き、平均や「満足」の割合を出す。総合満足度を一問で聞くこともある。スコアは出る。きれいに出すぎるくらいに。
どこまで言えるのか
問題は、その満足が何を約束するか、だ。
満足度が高ければ業績も上がる、という前提で施策を組む人は多い。だが両者の結びつきは、思うほど強くない。職務満足と業績の関係を 312 の調査・約 5.4 万人で統合した Judge らのメタ分析(2001 年)では、相関は r ≈ 0.30 だった。行動科学では中程度にあたり、無視できる小ささではない。関係はある。でも、満足度を上げれば業績がついてくる、と言い切れるほどではない。満足は業績の代理指標ではない。
もうひとつ、満足とエンゲージメントの混同に注意したい。エンゲージメントは仕事への没頭や自発的な貢献意欲を指し、満足とは別の構成概念として扱うべきだとされる(Macey & Schneider, 2008)。満足は「不満がないこと」、エンゲージメントは「前のめりであること」。冒頭の若手は、たぶん満足はしていた。前のめりではなかっただけだ。受け身の満足だけを見ていると、辞める前の静かな離脱を見落とすことがある。
そして、聞き方そのものの限界もある。記名式で、上司が結果を見るかもしれない調査では、人は波風の立たない方向に答えがちだ。この回答バイアスを放っておくと、本心ではなく「言える範囲の満足」を測ってしまう。さらに ES は、聞いたその瞬間の一枚のスナップショットでしかない。点を一つ取っただけで、満足が上がっているのか下がっているのかは、まだ何も言えない。
従業員満足度とは、安心の温度計であって、前進の燃料計ではない
ES は、職場に不満が溜まっていないかを映す温度計としては、確かに役に立つ。低ければ、どこかが壊れている。
でも、温度が高いことと、車が前に進むことは違う。
調査を発注するとき、本当に見たいのは何だろうか。従業員が不快でないことなのか、それとも、この組織を良くしたいと思ってくれていることなのか。前者を測りたいなら ES でいい。後者まで知りたいなら、満足という一本の物差しでは足りない。
満足度が高い、という報告に安心しきらないこと。その数字が答えてくれるのは「不満はないか」までで、「人が前を向いているか」は、別の問いとして自分で立てるしかない。